名作から問題作までいろいろ。おすすめの短編ホラー小説17選

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今回は心から冷たくなれる短編ホラー小説を紹介したいと思います。

どういうタイプか分かり易いように、便宜的に怪談系とホラー系にわけました。怪談系は心霊などゾッとするタイプのもの、ホラー系はミステリ要素があったり、グロ要素があったりといろいろです。独特な設定や発想のものが多いですね。

一人一作品に絞りましたが、ここにあげている作家は他にも多くのホラー作品を残しています。気に入った作家がいたら、別作品を漁ってみることをおすすめします。それでは良いホラーライフを。

怪談系

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『くだんのはは』小松左京

空襲を逃れるためにやって来た疎開先で、主人公はとあるお屋敷でお世話になる。広い屋敷にも関わらず住んでいるのは主人とお手伝いの二人だけ。血塗れの包帯を運んでいるのをたびたび目撃して、屋敷にもう一人住んでいるのことを知る。

作者が体験したという戦時中の生活にはリアリティがあります。その時代の空気感を知ることが出来、それだけでも読む価値は充分。加えて、ホラーとしての不気味さもあっておすすめです。短編ホラー小説の傑作と評されるのも頷けますね。

           

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『白髪鬼』岡本綺堂

弁護士を目指す須田は、下宿をしながら勉学に勤しんでいた。下宿先に山岸という男がいて、須田は彼を兄のように慕っている。山岸は頭脳明晰にも関わらず、何回も弁護士試験に落ちており、不思議に思って尋ねてみると、試験中に白髪の女が現れて邪魔をするからだという。その話を聞いてから、二人の周囲で怪現象が起き始めるのだった。

まさに王道の怪談という感じ。今から約90年前に書かれたというのもあって、雰囲気があります。そしてこの小説が凄いのは、最後の最後でゾッとさせられる点。怪談でひんやりしたいという人にピッタリの話です。

      

『箪笥』半村良

ある一家の三歳になる子供が、夜中になると箪笥の上に座って、そのまま夜があけるまでじっと動かない。家の者が何度注意しても一向に止めようとしない。それが発端となって他の八人の兄弟たちも次々と箪笥の上に座るようになる。ある夜のこと、カタカタという物音を聞いて目を覚ましたその家の主人は、驚くべき光景を目にする。

まさに怪談という感じ。読み終わってまず思うのは、これはいったい何なんだという感想。結局なぜそんなことをするのか分からず終いで、とにかく不気味。

能登に伝わる怪談として書かれていて全編方言。そして読者に語りかけるように書かれているため、実際に怪談を聞いているような気分になります。とても短い話ですが、一読の価値ありです。

  

『母子像』筒井康隆

主人公は幼い子供のために猿の玩具を購入する。子供はそれを大変気に入り、主人公も満足だった。ある日、何の前触れもなく妻と子供がいなくなる。心当たりを探しても見つからず、途方に暮れていると、どこからともなく子供の泣き声と妻の声が聞こえて来て――

とても静謐な印象の作品。現実世界が舞台にも関わらず、世間から隔絶されているような感じ。一家に訪れる怪異もそれを象徴しています。作品の持つ雰囲気が静かで寂しくて、なんとも言えない不安感が押し寄せて来る。読んだ後に誰かと連絡を取りたくなるに違いない。

 

『双頭の人』山田風太郎

研究者の鞆太郎はある女性に結婚を申し込む。醜い容姿でも中身が理想通りだったのだ。しかし彼女には秘密があった。どんなことがあっても気持ちが変わらない自身があった鞆太郎は、隠し事があるなら教えてくれと頼む。しぶしぶ明かした彼女の秘密は、鞆太郎の想像を絶するものだった。

顔と中身どちらが重要かという話は、いつの時代でも行われていたでしょうし、これからもされるのでしょう。この小説はその問題の本質を、奇妙な話にして提示してみた、という感じですかね。

非常に面白く興味深い短編小説でした。結末にはミステリのような驚きが用意されていて、思わず唸ってしまいます。

 

『ついてくるもの』 三津田信三

廃屋で雛人形のお雛様を発見した少女は、そのまま家に持ち帰ってしまう。それから次々と少女の周りで不幸が起き、お雛様を処分しようとするのだが、何故か自分のもとに戻ってきてしまうのだった。

この短編は怪談ではお馴染みの人形ものです。人形を持ち帰ったことで怪現象が起きるというのは、一つの様式美ともいえます。本作の特徴は怪現象のえげつなさ。ちょっとした好奇心のせいで、すべてを失ってしまいます。その救いのなさが恐ろしい。

 

『よもつひらさか』今邑彩

疎遠になっていた娘と会うため、田舎町にやってきた初老の男。その道中、親切な若者と出会い、町へと続く長い坂を一緒に上り始めた。世間話をしていると、若者はこの坂にまつわる怪談を語り始める。それはどこにでもある他愛のない迷信と思われたのだが――

怪談らしい怪談といった感じ。オチは途中で読めるし、恐怖という意味ではそれほどじゃないです。それでも雰囲気があって面白い。短編ホラーとしての完成度が高くて、怪談のお手本のような話。

 

『蜘蛛』遠藤周作

怪談会に参加した主人公。さほど興味を惹かれる話はなかったし、帰る途中で雨は降り出すわ、タクシーは捕まらないわで、とんだ一日となる。しかしこんなのはまだ序の口だった。怪談会の参加者が捕まえたタクシーに同乗させてもらい、一安心したのも束の間、そこで身の毛もよだつような気味の悪い話を聞かされるのだった。

これはある意味もっとも体験したくない話ですね。オチを読んだ瞬間、思わず本を閉じてしまいました。苦手な人はトラウマになる可能性があります

心霊的な恐怖ではなく生理的な恐怖、嫌悪感と言った方がいいですかね。興味を惹かれた方はどうぞ。オチ以外は怪談的要素が強いので、怪談枠に入れました。

 

ホラー系

 

『お母さまのロシアのスープ』 荻原浩

異国が舞台の家族の話。人里離れた場所でひっそりと慎ましく暮らしていた家族の家に、ある日、軍人がやって来ます。そして衝撃の展開を迎える。

個人的にかなり衝撃を受けた作品。物語は幼い娘の一人称で語られています。無垢な娘は何も知らず、起きていることをありのままに描写しています。読者はもちろん、それが意味する本当のことを理解出来ます。幼い語り口と現実とのギャップが切ない。

やるせない気分になりながらページを繰っていき、このまま終わるかと思いきや、最後に驚きが待っていました。そしてすべての意味に気付いた。呆然としましたね。一度読んだら忘れられない短編。

 

『ぞんび団地』 雀野日名子

小学二年生のあっちゃんは、継父と実の母親から虐待を受けていた。そんな彼女の唯一の楽しみは、廃墟となってしまったぞんび団地へ行くことだった。そこには物言わぬゾンビたちが住んでおり、傷ついたあっちゃんはそこで一時の安らぎを得ていた。

物言わぬゾンビたちに、あっちゃんは憧れを抱くようになる。パパもママも、そして自分もゾンビになれば、暴力なんてふるわない優しい世界で生きられるはず。そう考えたあっちゃんは、ぞんび団地で暮らすのが夢となり、その方法を模索する。

子供への虐待を扱った作品。そういった問題を扱った家族小説でありながら、ゾンビが出てくるのが新しい。物語は虐待される子供の視点で書かれているので、読んでいて辛いです。暴力を振るわれても両親を嫌いになれず、自分が悪いと考えるのが健気で切ない。

設定だけでなく構成もよく出来ていて面白いです。途中でそれまで見ていた景色が一変するようなことが起き、最後まで飽きさせません。虐待なので胸くそ悪くなる時もありますが、面白いのでおすすめ。

 

『蛇と梯子』 山口雅也

インドに赴任した家族に巻き起こる悲劇。日に日に夫婦仲が悪くなる中、幼い息子が突然猿の真似をし始め、ついには見た目まで猿に変貌し始めた。調べたところ、子供たちの間で流行っているスゴロクが原因と判明。息子を元に戻すため、家族四人は問題のスゴロクに挑む。

こちらはゲームを題材にした短編集『PLAY』に治められた一編。場所がインドでスゴロクはヒンドゥー教が関係しています。これによって闇のゲームっぽさが増していました。

スゴロクのマス目には罰が書かれていて、そこで止まるとプレイヤーがその通りに変貌します。初期の『遊戯王』や『ジュマンジ』みたいなところがあって面白い。設定は良いし、途中で予想外の展開になるし、結末もある意味とても怖い。他の収録作も面白いので、短編集自体おすすめですね。

 

『再生』 綾辻行人

愛する妻は世にも不思議な特異体質だった。体の一部を失っても、また元通り再生するのだ。そんな妻がクロイツフェルト・ヤコブ病に冒されてしまう。日に日に症状が悪化する中、彼女が命にかかわるほどの大怪我を負う。その時、夫はある方法を思い付き実行に移すのだが――

本格ミステリ作家として有名な綾辻行人は、ホラー作品も多く残しています。この短編は本格らしさが感じられる一品。特に恐怖は感じませんが、着眼点、オチがミステリ的で面白い。ホラーでしかできないギミックですね。ミステリ好きにおすすめ。

 

『セブンスルーム』 乙一

目が覚めると〝ぼく〟と姉は見知らぬ部屋に閉じ込められていた。何もない真四角な部屋にあるのは、部屋を横断する溝のみ。その溝を通ってぼくは移動し、同じような七つの部屋と、そこに監禁されている人たちを発見する。姉弟は何とかしてこの場所からの脱出を試みる。

映画『SAW』や『CUBE』をはじめ、この手の設定はホラーの人気ジャンルの一つ。特に真新しさはないのですが、普通に面白いです。この手の話が好きな人は読んで損はないかと。

 

『冷蔵庫より愛を込めて』阿刀田高

事業に失敗して精神を病んでしまった男が、長期入院していた精神病院から退院してみると、妻が借金を全て返済していた。さらに生活費も稼いでおり、男は穏やかな生活を送る。そんな折、友人からビジネスを持ちかけられ、妻のためにも新たなビジネスを始める決意をする。それは絶対上手くいく画期的なビジネスだった。

20ページくらいの短い話で、あっという間に読めてしまいます。ホラーというよりミステリの要素が強いですね。オチの切れ味が良い短編小説です。

 

『人間椅子』 江戸川乱歩

美しい女流作家のもとに一通の手紙が届く。そこに書かれていたのは身の毛もよだつ内容だった。醜悪な容貌の男による独白で、大きな肘掛け椅子の中に身を潜め、座った人間の感触を楽しんでいたという。女流作家はそこでハッとする。つい最近、自分の元にも大きな肘掛け椅子が届いたのだった……

江戸川乱歩はミステリだけでなく、ホラーも多く書いています。それもエログロとか気持ち悪くなるようなタイプを。中でもこの人間椅子は有名な作品で、こういう卑屈な人間を描かせたらさすがの上手さ。

こういう覗き趣味というか、変態的な嗜好の心理描写が巧みなので、説得力を感じます。あらすじだけみると荒唐無稽に感じても、読んでいるとノンフィクションかと錯覚してしまいます。

 

『人形塚』 渋澤龍彦

偏執狂的な教師の話。小学四年生のクラスを受け持っていた若い教師は、苛立つことがあると、児童に当たってストレス発散するような人間。発音の上手くない女児に、皆の前で本を読ませてなじるようなクズです。

そんな彼はある日、人形塚に大きな人形が捨ててあるのを発見する。しかし、よく見るとそれは、発音の上手くない女児の死体だった。異常な興味を抱いた彼は、女児の遺体を自宅へと持ち帰る。

渋澤龍彦はサディズムの語源となったマルキ・ド・サドを日本に紹介したりと、文化人として大きな影響を与えてきた人。そんな渋澤龍彦が描いたこの短編は問題作と言っていいでしょう。内容もヤバイですし、今では差別に当たる用語も使われています。昭和時代だから書けた小説ですね。

 

『姉飼』遠藤徹

ある祭りの夜、的屋で〝姉〟と呼ばれる生き物が売られていた。姉にどうしようもなく惹かれた少年は、成長してからついに手に入れることに成功する。それから二人だけの禁断の生活にのめり込んで行くのだった。

こちらも問題作ですね。端的にいうならこの短編は拷問もの。なので個人的には好みではない。とはいえ、世界観が独特で歪んだ欲望を描くのが巧みなので選びました。

『人形塚』に続いて、普通の小説に飽きた人におすすめ。嫌悪感を覚えるシーンも多々あるため、覚悟の上で読んで下さい。

 

あとがき

昔はテレビでよく怖い話のドラマをやっていたのに、今は全然やってないですね。個人的にはとても残念。夏の風物詩みたいに思っていたところがあったので。

僕と同じようにそういう番組が好きだった人は、ここで紹介するような短編ホラーを読んでみてはいかかでしょう。寝る前や空き時間などに、手軽に読めてゾッとできるものばかりですよ。

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