『百蛇堂 怪談作家の語る話』三津田信三 あらすじと感想 ネタバレあり

 

感想 ★★★★☆

旧家を舞台にした土着ホラー『蛇棺葬』の続編――というより、二つで一つの作品ともいえます。

『蛇棺葬』を未読で読むと、意味が分からない部分が多々あるため、必ず読んでおく必要があります。

『蛇棺葬』は謎が謎のまま終わるホラー作でした。本書ではある程度その謎が明らかとなります。まさに三津田ワールドという作品で満足感がある。

しかしながら、二作合わせて1000ページ越えの大作として考えると、どうだろう……。絶賛できるほど凄い作品ではないですね。 

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あらすじ

出版社で編集をしている三津田信三は、ある出版バーティで怪しげな男と出会う。

その男の実体験という怪談話を聞いている内に、話にのめり込んでいった三津田は、小説として出版したいと申し出る。

だが、それが大きな間違いだった。原稿が完成して読み返している内に、三津田の周りで怪奇現象が起き始めたのだ。

三津田自身も、そして原稿を読んだ同僚は身の毛もよだつような恐怖体験をする。

原稿の内容は、奈良の旧家に纏わる異様な話だった。そこで三津田は友人たちにも協力を仰ぎ、この話について調べ始める。

結果、次々と予想外の事実が明らかになるのだった。

はたして三津田はこの恐ろしい話の真相を明らかに出来るのか。そして呪いを解けるのか――。

 

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感想

三津田が出会う怪しげな男は、『蛇棺葬』の主人公・龍巳。そして原稿の内容は『蛇棺葬』そのもの。

つまり『蛇棺葬』は『百蛇堂』の作中作だったといえます。

そう考えると、前作を読んだ時の変な感じも納得いきます。龍巳というキャラが書いたと考えれば、変で当然、あれが最適となります。

龍巳は特異な体験をした浮世離れしたキャラ。漢字を多用した古めかしい文体も、三津田との違いを分かり易くするためだったんですね。

これで前作の読みづらさの謎は判明しました。そう考えると『蛇棺葬』に対する評価も変わってきます。

僕は星二つの評価にしたわけですが、一つのホラーとして読んだ感想としてご勘弁を。

今作では前作のような読みづらさは感じなかったです。いつも通りの文体。

ホラー映画や小説に関する蘊蓄が豊富で、こちらはお馴染みとも言えますね。それが原因で話が逸れる時が多々あります(笑)。

前作と比較するとミステリ成分が多め。様々な人体消失の謎が出てきます。そして主人公・三津田の友人として探偵役が登場し、各種の謎に対して論理的な解釈がもたらされます。

とはいえ、刀城言耶シリーズのような扱いとは異なります。謎解きがメインではありません。

本書はあくまでホラー作。現実的に納得出来る解釈も提示しておいた、くらいの感じ。

ただ、前作で起きた百蛇堂からの失踪事件についてはしっかり扱われます。この点が気になっていたので良かった。

謎解きについても納得できます。でも、それと同時に疑問点も生まれたので、そちらはネタバレにて。

ホラーとして見ると、話が進むにつれ次第に恐怖感は薄まったように思います。序盤での三津田や同僚の玉川の怪異体験は、ちゃんと怖い。

特に玉川の部分はここだけ抜き出しても短編ホラーとして成立しそう。オチにもゾッとさせられました。

中盤辺りの龍巳家での話も怖いものの、百巳家の謎へ迫るにつれ、その真相の方に興味が移ったせいかもしれません。

結末に関しては、性急に感じました。ページ数が少なくなっても一向に終わる気配がなく、いったいどうやって終わらせるのだろう、本当に終わるのかと不安になるほどでした。

全体のページ数から考えると、結末部はかなり少ない。そこでいろいろな真相が明らかになるのですが、一気にたたみかけるというよりも、駆け足の印象が強かった。

真相自体は怖さを感じられる面白いものだったと思います。三津田信三らしさも発揮されていましたね。

 

あとがき

基本的には満足です。作中作を1冊のホラーとして出すのは面白い試みだし、ホラーとミステリを上手く融合させています。

そういう意味で全体的な完成度は高い。それでも絶賛するまでには至りません。

意図があったとしても、やはり『蛇棺葬』が読みづらいのは否めないと思う。

それに僕は主人公の三津田にあまり魅力を感じなかった。もしかすると、この点が最も大きいかも知れません。

 

 

ネタバレ

謎解きに関して一つだけ気になった部分がありました。それは密室の百蛇堂から、父親の直歩が失踪した事件について。

ここで直歩が妻に殺された説が披露されます。

かなり力技で苦しい論理ですが、それ自体に文句はありません。面白いトリックだと思いました。

しかしながら、その前に検討されるべき説があるはずなのに、それにまったく触れられていないことに違和感を覚えました。

それは直歩が自発的に失踪した説。

直歩殺害説では、犯人である妻は百蛇堂から脱出する際に、凹みに隠れて民をやり過ごします。

直歩が居ないことに驚いた民は、棺桶の方に向かいその隙に脱出したというもの。

これが可能であるなら、直歩にもできたはず。同じように凹みに隠れて逃げればいいだけですからね。

殺人説という大仰なのを持ち出す前に、まずこちらの可能性を潰すべきでは。

直歩が自分から失踪することは絶対にない、という前提があって初めて成立する説ではないでしょうか。

最終的には殺人説が間違いなのが分かり、直歩が登場することから、この時点では触れられなかったのかもしれません。

僕はこれに引っかかっていたので、間違いが判明しても、直歩が登場しても、「ふーん」となってしまった。やはり直歩は生きてたのねと。

まあ、本格ミステリではないので、そんなに気にする必要ないかもしれませんが。

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