おすすめの傑作ホラー短編集『押し入れのちよ』荻原浩

感想 ★★★★★

九編を収録したホラー短編集。切ないものから衝撃を受けるものまで、様々なタイプの話があってお得感があります。

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あらすじと内容

本作に収録されている短編小説は、幽霊系のものから、犯罪を目論む人間の駆け引きを描いたサスペンスフルなものまで、豊富に揃っています。しかも、怖いものから切ないものまでテイストも様々。

なので気に入った作品が必ず見つかると思います。是非とも多くの人に読んでもらいたい一冊。とはいえ、ホラーは苦手という人もいると思うので、各話がどういったタイプなのか、ざっくりと書いておきます。

『お母様のロシアのスープ』

異国が舞台の家族の話。ひっそりと慎ましく暮らしていた家族の家に、ある日、軍人がやって来ます。そして衝撃の展開を迎えます。

これはかなり衝撃的な作品です。ある意味怖いのですが、幽霊やグロとかの話ではないです。詳しくは後ほど。

『コール』

大学時代を共に過ごした二人が墓参りに行き、昔の思い出話に浸ります。青春小説っぽさがあって純文学的ですね。切なくもあり、微笑ましくもあります。怖い話ではないです。

『押し入れのちよ』

幼い幽霊との交流を描いたハートフルな物語。詳しいあらすじと感想はのちほど

『老猫』

家族で飼っている年老いた猫の話。これは怖い話です。グロとかのホラー系ではなく、怪談という感じですね。年老いた猫が妖怪化するという逸話も、あながち嘘ではない気がしてきます。

『殺意のレシピ』

不倫中の夫が妻の殺害を計画します。こういう内容に反して、雰囲気はコミカルでどこかコントのようでもあります。素直に面白い話。怖い要素はないです。

『介護の鬼』

義理の父親の介護に疲れ果てた主婦がついに我慢の限界を迎える。それが恐怖の始まりだった。この短編はサスペンス的な怖さです。スリルを感じるタイプで、グロとか心霊系の怖さではないです。

『予期せぬ訪問者』

人を殺してしまってパニックに陥る主人公。そこへ訪問者がやって来て混乱の極みに達します。これもスリルを感じるタイプの小説ですね。主人公の置かれた状況を考えると、ハラハラします。訪問者とのやり取りが面白いです。

『木下闇』

本書の中ではもっとも静謐な作品。しっとりした雰囲気があります。詳しいあらすじと感想は後ほど。

『しんちゃんの自転車』

真夜中の田舎町を小学生の男女が探検します。どこかメルヘンチックで不思議な雰囲気のある小説。恐怖やグロはないです。

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傑作短編小説が三つも

この中で特に好きなのは、『お母様のロシアのスープ』、『押し入れのちよ』、『木下闇』の三編。

『お母様のロシアのスープ』

この小説は幼い娘の一人称で語られています。無垢な娘は何も知らず、起きていることをありのまま描写しています。読者はもちろん、それが意味する本当のことを理解出来ます。幼い語り口と現実とのギャップが切ない。

やるせない気分になりながらページを繰っていき、このまま終わるかと思いきや、最後に驚きが待っていました。そしてすべての意味に気付いた。

伏線はいたるところに張られていたのです。しかし、それらが伏線とはまったくわからなかったです。その巧みさに二重に驚かされました。この『お母様のロシアのスープ』は一度読んだら二度と忘れられない作品です。

『押し入れのちよ』

あらすじ
主人公の恵太は失業中でおまけに恋人との関係も芳しくないという踏んだり蹴ったりの状態。そんな彼が引っ越した先にいたのが幽霊のちよ。

恵太は最初ちよのことを怖がっていたが、彼女が悪い霊ではないことを知ってだんだん心を通わせてるようになります。 ビーフジャーキーをおいそうに食べたり、テレビを見てはしゃぐちよがなんとも愛くるしい。

座敷わらしのようなちよに、どの会社に就職するべきか占ってもらう恵太。そんな生活を送っているうちにちよがなぜ死んだのか明らかとなる。その理由は悲しくて惨いです。

恵太とちよのやり取りが微笑ましくて、ほっこりした気分になります。でも悲しさもあるため、終始ほのぼのというわけではないです。ただハートフルなだけではなく、胸に迫ってくるものがあります。短編小説としての完成度が高くて、定期的に読みたくなります。

『木下闇』

主人公の〝私〟は、幼い頃に妹が失踪するという事件を経験して、心にトラウマを抱えていた。自分と隠れんぼをしている際に行方不明になってしまったので、ずっと責任を感じていたのだ。

そんな過去と向き合うために、大人になった彼女は何年かぶりに故郷を訪れる。昔よく一緒に遊んでいた従兄弟の家に泊まった主人公。大きなクスノキがあるこの家で遊んでいた時に、妹はいなくってしまたのだ。

夜、眠っている時に彼女は窓の外に妙な気配を感じる。思い切って覗いて見るが誰もいない。そこにはクスノキが泰然と聳えているだけだった。この巨木に何かあると確信した彼女は、翌日、頂上を目指して登り始める。

幼女の神隠しから始まるこの話の真相は、胸くそ悪いです。でも、主人公の成長が感じられる終わり方になっているため、後味はそれほど悪くないです。静謐な雰囲気と相まって、とても好きな短編です。

最後に

以上のように様々なタイプの短編が揃っています。こういった短編集の場合つまらない話も混じっているものですが、本作は粒ぞろいでどの作品も面白く読むことができました。

ホラー小説が苦手な人にも手に取ってもらい、おすすめの一冊です。

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