夏にピッタリなホラー短編集『ついてくるもの』三津田信三

yabu

感想 ★★★★★
七つの話が収められたホラー短編集。これからの時期にぴったりな怖い話ばかりで堪能しました。表題作の『ついてくるもの』と『八幡の藪知らず』は一読の価値あり。
三津田作品で僕が読んでいるのはもっぱらミステリーで、ホラー作品はほとんど手を着けていなかったため、これから読んでいこうと思ってます。
手始めにどれを読もうかと考えた時に、本作の評価が高かったのでこちらを選びました。確かに評価が高いのも頷ける内容。

『夢の家』

とあるパーティで知り合った女性と良い感じになった男。より深い関係になろうかと交流を続けるうちに、女が少し妙な考えの持ち主だと気付く。そこで関係を絶つのだが、女が連日夢の中に現れるようになる。

そして徐々に夢の中で女の家に近づいて行くのだった。その家に入るといったいどうなってしまうのか。男は寝ることに恐怖を覚え、日常生活に支障を来すまでになる。

『ついてくるもの』

何かに誘われるように廃屋に入った少女は、そこで雛人形を発見する。他の人形がボロボロの中、お雛様だけが不思議と綺麗なままだった。気になった少女はお雛様を家に持ち帰ってしまう。それから周りで不幸なことが起き出して、人形を処分しようとするのだが、何故か自分のもとに舞い戻ってくるのだった。

『ルームシェアの怪』

先輩の紹介でルームシェアをすることになった女。家賃が安くなったし、職場への交通の便もよくなって良いことづくしだった。しかし住人の1人から嫌がらせを受けるようになり、先輩に相談したところ、驚くべき話を聞かされるのだった。

『祝儀絵』

婚姻の様子を描いた古い絵画を手に入れた男の周囲で、妙なことが起き始める。彼女と名乗る女が友人や恋人の前に現れるようになったのだ。男はその女に何の心当たりもない。不思議に思っていた時、絵の中に描かれた花嫁の姿が変化しているのに気付く。

『八幡の藪知らず』

夏休みを前にしたある日、仲良し五人組の小学生たちが、度胸試しで禁忌とされている森へ入ることを計画する。冒険心を刺激されワクワクしていたのは最初だけで、警告するような手紙が届くようになると、一転して不安に包まれる。

それでも、仲間にビビっていると思われたくなくて、中止を決断できずに実行することに。ただの迷信だと強がって子供たちは森へと入っていく。

『裏の家の子供』

新居に引っ越してきた同棲中のカップル。最初は新生活にウキウキしていたものの、すぐに関係は悪化し破局してしまう。男が出て行き、女はその家で暮らすようになった。

それからまもなく、裏の家の子供の騒音に悩まされるようになる。妙なのは裏の家に子供が住んでいる様子がないこと。訝しく思っていると、今度は家の中から子供の音が聞こえるようになり――

『百物語憑け』

著者の百物語についてエッセイ。
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短編ホラーの傑作

本書の構成は、著者が人から聞いた恐怖体験を語るという形式になっています。冒頭でまずホラーや怪談についての蘊蓄があって、それからこんな話を聞いたという感じで本編が始まります。
なので実話怪談のようなリアリティがあって、夏に読むには最適の一冊。題作の『ついてくるもの』と『八幡の藪知らず』は、どちらも甲乙つけがたいほど怖くて面白かった。ホラー短編のオールタイムベスト入りですね。
『ついてくるもの』は人形系の怖い話の定番というか、様式ともいえる設定。それでいてありふれた話と感じさせず、ちゃんと恐怖を与える話になっているから凄い。人形系怪談の中でもトップクラスの怖さだと思う。
『八幡の藪知らず』は三津田信三らしい作品でした。禁忌の森という因習的要素が出てくるし、森のネーミングセンス、漢字の当て字など、刀城言耶シリーズでお馴染みの手法が使われています。僕は未読ですが、小学生が主人公のホラーも書いているようですしね。
それもあってか、子供の世界における人間関係、上下関係も違和感なく共感できました。森の描写や不条理な結末もホラーらしくて良かったです。

その他の感想

その他の短編の感想は手短に。まず『夢の家』ですが、これは本書の中では一番微妙だった。夢の中で家が出てくる設定はよくあって、特筆するほどの面白さは感じなかった。『ついてくるもの』とは逆で平凡な印象。
『ルームシェアの怪』は一番リアリティのある話。結末を含め本当に実話でもおかしくレベル。だからこれが一番好き、怖かったという人もいるでしょうね。
『祝儀絵』は田舎の珍しい風習を知れたのが良かった。恐怖という意味では怖くない。やはり主人公が
怖い目に遭わないとインパクトが薄いですね。
『裏の家の子供』はミステリ要素のある話。モダンホラーとして楽しめます。良作。
『百物語憑け』はページ数も少なく本当にエッセイのような感じ。実話か創作かわからなくさせるという意味では、本書のコンセプトにふさわしい話。これ一つとってどうこう言うものじゃないですね。

あとがき

こんな具合に抜群のホラー短編が二つもあり、他の作品もそれぞれ良さがあって面白いので、読んで損はないですね。最近暑くなってきてホラーを探している方、おすすめですよ。

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