
感想 ★★★★☆
本格ミステリ作家として人気を博している綾辻行人は、ホラー作品も得意としています。本書に収められた中編三作は、ミステリとホラーを融合させたような作品となっています。
どちらも好きな僕みたいな人間にとっては、垂涎の短編集。
ホラーと言っても、幽霊が出てきてゾッとするようなタイプじゃないです。人間の精神の脆さ、怖さ、儚さを前面に押し出したようなホラー。
いずれの作品にも架空の精神病院が登場し、そこに入院する患者たちの奇妙で悲しくもある物語が綴られます。
日記が三作に共通するテーマとなっていて、各話の半分ぐらいの割合で作中作として登場します。
あらすじと感想
『悪魔の手 ――三一三号室の患者――』
自分の過去に苦しむ浪人生の話。七歳の頃にかいた日記を発見し戸惑う主人公。彼にはそんなものを書いた記憶がまったくない。そればかりか幼い時分の記憶も曖昧で判然としないことに気づく。
自分のアイデンティティーが崩壊しそうになる主人公の恐怖が描かれている。
『四〇九号室の患者』
こちらの主人公も自分が誰なのかわからなくなってしまう。全身やけどを負うような大事故にあったのがその原因。おまけにその事故で恋人まで失ってしまう。主人公は平静を保つために日記をつけ始めるのだが。
『フリークス ――五六四号室の患者――』
表題作のこちらは他の二作とは少し趣が異なります。
主人公と探偵のもとへ精神病患者が書いた日記が届けられ、その日記に書かれた謎を二人が解明します。本格ミステリの要素が強いですね。
作中作として登場する精神病患者が書いた日記は、本格ミステリの問題編そのものといった感じ。
マッドサイエンティストのJ・Mが、五人の子供たちに人体改造を施すグロテスクな内容で、最後にはそのJ・Mが何者かによって惨殺されます。
そして日記は「J・Mを殺したのは誰か?」という一文で終わる。
日記の謎は本格ミステリらしく論理的に解かれます。フリークス(異形の者)が登場するグロテスクなホラーに、ミステリ要素をうまく盛り込んでおり、非常に秀逸な作品。
ホラー作品にするために、ただグロくしているわけじゃなく、ミステリとしてちゃんと意味があったことに驚いたし、感動しました。
さすが綾辻行人ですね。
あとがき
三作ともそれぞれ趣向が凝らされた良作で、楽しんで読めました。ただ『悪魔の手』と『四〇九号室の患者』はそこまででもない。
『フリークス』は絶品で読む手が止まりませんでした。猟奇的なものが苦手な人にとっては、きつい作品だと思うので要注意です。


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