『エレファントヘッド』白井智之 あらすじと感想 ネタバレなし

 

感想 ★★★★★

2024本ミス一位を獲得した作品。白井作品を読むのは『名探偵のいけにえ』に続いて二作目ですね。

エログロが特徴の作家ということで避けていたのですが、『名探偵のいけにえ』の凄さに圧倒され、本書も読んでみることにしました。

グロ満載ではあったものの、トリックのすさまじさが際立つ唯一無二の作品。本ミスで一位になったのも納得です。

『名探偵のいけにえ』でハードルが上がった状態で読んでも、ちゃんと満足でました。

でも個人的には『名探偵のいけにえ』の方が上です。総合的に見て。

本書のトリックについては空前絶後と言っていいでしょう。こんなトリックみたことありません。常人にはまず思いつかない。

本書はかなり尖がった作品なので、万人にお勧めできる作品じゃないです。

グロ要素だけじゃなく、SF要素もあって設定がモリモリ。いろいろ複雑です。一切何も知りたくない方は、まず読んだ方がいいです。

ネタバレはしていませんが、感想部分で設定には触れているのでご注意を。

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あらすじ

精神科医の象山は、妻と娘二人に囲まれ何不自由ない生活を送っていた。家族仲は良いし、一軒家に住んでおり車も持っている。

まさに絵に描いたような幸せな暮らしぶり。

彼の生き甲斐はこの生活を守ることだった。守るためなら何でもする。それが象山の価値観だった。

そんな彼がある日窮地に陥る。このままでは家族が崩壊する。

謎の薬を手に入れた象山は、それを使って何とか危機を回避しようとするのだが、事態は思わぬ方向へ向かう。

次々起こる不可解な死の真相を、はたして象山は解決できるのか。

 

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感想

僕はまったく予備知識がまったくない状態で読み始めました。

本格ミステリなのは間違いないだろうと思っていましたが、本の紹介ページや帯ではどんな話なのかまったく見えてこなかった。

なので、こういう話なのかとまず驚かされた。

精神科医が主人公なので、その手の病気がトリックに絡んでくるのかと、漠然と予想しながら読み初めましたが、全然違いました。

これは序盤で明かされますが、主人公の象山はサイコパスの殺人鬼です。

自分の生活を守るためなら他人の命を奪うこともいとわない。そんな人間。これまで何人も殺しています。

僕は真っ先に『悪の教典』の蓮見が思い浮かびました。

それでそんな感じのノワール作品なのかと思っていたところで、今度はSF要素が入ってきます。

この話はいったいどこに向かうんだと困惑しました。

シスマなる違法薬物を接種すると、時間遡行し平行世界が誕生する。

そしてある世界で誰かが死ぬと、例えばAという人物が死ぬと、別の平行世界のAも死ぬという設定。

ここまでの設定を理解して、ようやく本格ミステリが始まります。

不可能と思える状況で次々と殺人事件が起き、その方法も異常極まりない。

グロ満載とはこういうことかと理解しました。

グロ耐性がないときついものの、謎という意味ではとても魅力的。どう考えてもこんな犯罪は不可能と思えます。

そしてそれが最後に見事な論理で解決される。

なので、本格ミステリとしてはとても面白い。おそらくこんなトリック他の作品ではまず無理。この作品でないと成立しません。

かなり独特で奇抜なトリック。真相に至るロジックにも納得できます。

本作は多重解決ミステリでもあって、提示されるどの解もユニークなものばかり。

『名探偵のいけにえ』しか読んでいませんが、この辺りのクオリティの高さは共通して凄い。

でも一つ思うのは、いくら特殊設定ミステリとはいえ、特殊すぎるかなあという点。

トリックが凄いのは紛れもない事実だし、不満はありません。

でもそれ自体より、このトリックを成立させるためにこれだけ複雑な設定を構築した、そちらの方に目が行ってしまいます。

『名探偵のいけにえ』の方はまだ現実味のある設定だっただけに、純粋に驚きが大きかった(あの作品も特殊ではあるけれども)。

この複雑な設定を受け入れるかどうかで評価が変わってきそうな気がします。

  

あとがき

おそらくこの作者にしか書けない作品。そういう意味で期待通り。満足です。

ただ、一気読みしないと理解できないくらい複雑だと思う。

僕はトリックを明かされても、すぐに「あっ!」という感じでは驚けなくて、一拍おいてから「そういうことか」と理解した感じ。

グロに関しては、ホラーみたいに怖がらせようとして書いているのとは違って、作品のための舞台装置という印象でした。

そうは言っても倫理的には酷いもんなんで、覚悟の上で読むべきかと。

それにしても、今の世の中はグロが求められているんでしょうか。

漫画界では『チェーンソーマン』が大ヒットしてますもんね。

グロに関しては、何となく『チェーンソーマン』的なものを感じました。

 

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