感想 ★★★★☆
呪われた姉妹について書かれた実話怪談集。僕は知らなかったのですが、著者はその界隈では有名な人のようだ。読むのは今回が初めて。
いろいろ思う所はありましたが、怪談に求められる怖さや対処のしようがない絶望感は、しっかり感じられました。
評価が高いのも納得(若干高すぎる気もしますが)。怪談好きの人は一読の価値ありです。
あらすじ
映画プロデューサーで退魔師でもある伊東礼二は、部下のカメラマン・健治から相談を受ける。婚約者の沙代子が執拗な嫌がらせをされているというのだ。
相手は絶世の美女の双子。そのやり口は尋常ではなく、精神を病んだ沙代子は自ら命を絶ってしまう。
それからしばらくして、伊東の元へ例の双子から連絡が来る。何でも彼女たちの周りで不吉なことが起きているという。
――これはもしや沙代子の呪いなのでは
不吉な出来事はどんどんエスカレートしていき、礼二を含む関係者たちは恐怖のどん底へ突き落とされるのだった。
感想
最初にまず言いたいのは、救いのない話なので読んでいて気が滅入ってきます。胸くそ悪い部分もあるし、そういうのが苦手な人は注意ですね。
本書は怪談収集家の著者が伊東氏から話を聞き、それを忠実に書き記した――という体になっています。
なので普通の小説のような書き方ではなく、伊東氏が体験談を語るスタイルになっており、直接話を聞いているような気分になります。
実話怪談っぽさ満載ですね。
内容の方は、創作であってくれと思うような悲惨さです。いじめられて自殺してしまった沙代子のも、その後に双子が体験する話も、悲惨極まりない。
双子に関しては自業自得だと最初は思っていました。でもだんだん哀れに思えてきて、勧善懲悪のような気持ち良さは微塵もありません。
執念、人の業とは心底恐ろしいと、ただただ思うばかり。
場面を想像して視覚的な怖さを感じる部分もありました。話としても画としても怖さを感じられて、怪談として満足です。
とはいえ、気になる点もいろいろありました。
気になる点
個人的に引っかかるのが伊東たちの対応。沙代子が双子から受けていた嫌がらせは、もう嫌がらせの域を超えていて普通に警察が動くレベル。
にもかかわらず、伊東たちは警察に言いません。もしその時にきちん対処していたらこうはならなかったでしょう。そのことに違和感、というか、少し嘘っぽさを感じました。
伊東は常識人みたいな描かれ方ですが、僕には全然そんな風に思えなかった。
双子一家への対策にしても、不吉なことが起き始めて六、七年も経ってからようやく、これは祟りだと言ってお祓いする始末。対応が遅すぎる。
その様子をビデオに収めようとするのも、何だかなあと思ってしまう。
そして極めつけは、この話を映画にしようとしていたこと。確かに映像化したらホラー映画としてかなり見栄えのする作品になるでしょう。
でも伊東はこの話に関わった当事者です。
こんな悲劇を間近で見てきたはずなのに、それを映画化しようとするなんて信じられない。どういう神経をしているのか疑うレベル。そのせいで映画関係者も亡くなっていますからね。
こういう対応の仕方などもあって、終始モヤモヤした気分になりました。
それと、双子に関しては否が応でも叶姉妹を想起させます。叶姉妹をモデルに創作したのかと思ってしまった。見た目や性格が違っても、イメージやエピソードが似すぎていると思う。
あとがき
とても悲惨な話なので、是非とも創作であってくれと願うばかりですが、特定できそうな具体的な情報が結構出ています。
いつ頃、どこどこのホテルで大きなパーティーが開かれたとか、映画会社を設立したがすぐに倒産したとか、芸能関係者ならわかりそうな感じで書かれています。
実話の信憑性が高まるし、そして何よりこの〝特定できそう〟感がヒットに一役買っていると思う。
ネットで検索してみるとその手の話題がいろいろ出てきます。実話怪談においてこれは重要な要素かもしれませんね。
さて、本書は実話怪談としては長編の部類に入ると思いますが、ページ数は170ページほどと、そんなに長くありません。
夏が来て怪談でも読みたいなあと思った方、おすすめです。
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