『アンダー・ユア・ベッド』 大石圭 あらすじと感想

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感想 ★★★☆☆

角川ホラー文庫から出ている作品ながら、ホラーという感じではなく、屈折した人間による恋愛小説でした。

ある女を追いかけるストーカーが主人公で、最初は嫌悪感を覚えるんですが、物語が進むにしたがって、だんだんその思いが変化してきます。

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あらすじ

無気力な生活を送っていたアラサーの直人は、ある日ふと、大学時代に憧れていた千尋のことを思い出す。

一度だけ彼女とカフェでコーヒーを飲んだことがあり、その時のことを忘れられずにいた。

もう一度その幸せの瞬間を味わいたいと願った彼は、彼女の行方を調査しストーカーを開始。

彼女はすでに結婚して夫婦で一軒家に住んでいた。父親の遺産があった彼は、千尋が住む町に引っ越し、そこで熱帯魚店を経営する。

千尋の家からも近く、双眼鏡で彼女の家を覗くことができたので最適の場所だった。

彼はそれだけでは満足せず、盗聴器を仕掛けたり、家に侵入してベッドの下で夫婦の会話を盗み聞きしたりする。

そんなストーカー行為を繰り返すうちに、彼女が旦那から酷い暴力を受けていることを知る。彼女は誰にも言えず一人で苦しんでいた。それを知っているのは世界で直人ただ一人。

しかし直人は生来のコミュ症だし、ストーカーをしている負い目もあって、どうしていいかわからず悶々とするばかり。

旦那の暴力は限度を知らず、千尋の精神が限界に達しようという時、直人はあることを決断する。

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感想

有名な都市伝説で、ベッドの下にストーカーが潜んでいるという話があって、そういう恐怖が味わえる作品かと思って読み始めました。

本書はストーカー男の一人称で語られ、期待通りの気持ち悪さがあって、この主人公が女を追い詰めていく作品だろうと思っていました。江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』と『人間椅子』が合わさったような怖い話かと。

でも、途中からちょっと違うぞと感じ始めました。主人公の直人がやっているのは気持ち悪い行動に違いないのですが、人間性はそれほど異常ではない。

人と接するのが苦手で感情表現の仕方が下手なだけで、まともな人間なのです。

人に必要とされた経験がない、愛されたことがないのがその原因だとわかり、そうなった理由にも納得がいきます。赤ちゃんに対する接し方で、心優しい人間であることもわかります。

その一方、千尋に暴力をふるう旦那の健太郎は、時代錯誤の封建的な考えの持ち主。束縛は激しいし女は黙って男に従うべし、という男。

妻に対しては虐待と凌辱を繰り返しているくせに、外部に対してはいい人を演じているため、自然と直人の方に肩入れしてしまいます。

気になった点

一つ気になったのは、視点をころころ変える必要があったのかということ。

基本的には直人の視点で進んで行き、途中で千尋や健太郎の視点に移り、それぞれの内面が描写されます。

千尋はまだいいとしても、健太郎の視点は不要じゃないでしょうか。何を考えているかわからない方が、悪役としてはいいように思う。

それぞれの視点を入れることによって、無駄に長くなり、間延びしているような印象を受けました。

それと最後のシーンに不満があります。最後は千尋が暴力を受ける前に直人が登場すべきでしょう。

もうさんざん暴力シーンは描いているのだから、あそこでわざわざ入れる必要はなかった。そうなる前に登場するから主人公がかっこよく見えるし、爽快感が得られる。

あそこで暴力シーンを入れるのは、面白くするためではなく、ただのサディズムに感じました。

あとがき

本書はあからさまな性描写というか、凌辱シーンがあるので苦手な人もいるでしょうね。誰にでもお勧めできる作品ではないです。

とはいえ、ある意味純愛といえる作品だし、後味も悪くないので鬱作品とは違います。なかなか興味深く面白い作品でした。

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