感想 ★★★★☆
それぞれ味わいの異なる五編を収録した短編集。単行本では1冊だったのを、文庫化の際に『zoo1』、『zoo2』の2冊に分冊しています。
本書にはホラー短編が集められています。幽霊やモンスターなどは出てこず、人間の恐怖が描かれています。『陽だまりの詩』だけSFでテイストも少々異なりますね。
どれも読みやすくてサクサク読むことができます。
あらすじ
『カザリとヨーコ』
双子の姉妹の話。カザリの視点で物語は進んでいく。綺麗な容姿で誰からも愛されるヨーコとは対照的に、カザリは母親から忌み嫌われ友達もいない。
ある日ヨーコは母親が大切にしていたパソコンを壊してしまう。叱られるのを恐れたヨーコはカザリのせいにしようと画策する。それを察知したカザリはヨーコにあることを提案する。
『SEVEN ROOMS』
目が覚めると「ぼく」と姉は見知らぬ部屋に閉じ込められていた。何もない真四角の部屋。あるのは部屋を横断する溝のみ。
その溝を使って「ぼく」は移動し、同じような七つの部屋とそこに監禁されている人達を発見する。しかし一つだけ空っぽの部屋がある。
いったいなぜ監禁されているのか、ここから無事脱出することができるのか。
『SO-far そ・ふぁー』
「ぼく」が過去に経験した不思議な出来事を回想する。父親と母親との三人暮らしだった「ぼく」は、ある日おかしなことに気付く。父と母はお互いのことが見えていないようなのだ。
不思議に思って尋ねると二人とも「(父、母)はもう死んだんだ」と答える。だが、「ぼく」には二人の姿が見える。父親が死んだ世界と母親が死んだ世界の狭間に、自分がいることに気付く。
やがて「ぼく」はどちらか一方の世界を選ぶことを強いられる。
『陽だまりの詩』
人類がほとんど死に絶えた世界。そんな中を孤独に生きる博士は、自分の死体を埋葬してもらうためにアンドロイドを作成する。博士の死期は近かった。
博士はアンドロイドに『死』の意味を学んでほしいと告げる。しかしアンドロイドには理解できない。博士との生活を続けるうち、アンドロイドは徐々に変化していく。
花をウサギを万物を愛しいと感じるようになる。そしてついに博士に死が訪れ……。
『zoo』
「俺」のポストへ毎日投函される不気味な死体の写真。それは「俺」の彼女の死体だった。彼女を殺したのは誰なのか? それは「俺」である。
愛する彼女を殺してしまった「俺」の「俺」による「俺」のための一人芝居。その悲哀の物語の結末やいかに。
感想
この中で一番印象に残ったのは『陽だまりの詩』。ロボットに心が宿るのか、というよくある話ですが、雰囲気よく仕上がっていて、チクリと胸に刺さるような切なさがあります。
『カザリとヨーコ』が一番好きという人も居ると思います。この作品は毒親が登場し、家族や人間の嫌な感じがよく表現されています。
結末の予想はできるものの、それでもショッキングではあります。
『SEVEN ROOMS』は陰惨な描写のあるストレートなホラー。こういうシチュエーションの話は、映画『SOW』シリーズをはじめ人気のある分野だと思う。
この手の話として魅力的な状況設定になっています。七つの部屋の謎、ここで何が行われているのかが明らかになる展開に、ページを繰る手が止まりません。
魅力的な設定であればあるほど、尻すぼみになる作品もありますが、ラストにも捻りがきいて良かったです。この手の話が好きな人におすすめですね。
『so-farそ・ふぁー』と『zoo』は人間の心の不思議さにスポットが当てられています。怖さを感じタイプではなく、人間の精神ってよくわからないよなってなります。
あとがき
どれも楽しく読むことができました。平易な文章で手軽に読めるので、娯楽としてちょうどいいです。『陽だまりの詩』だけ明らかにテイストが違ってちょっと浮いてましたね。
ホラーが苦手な人は本書を手に取らないと思うから、もったいない気もします。他の短編集に入れた方が良かったのでは。
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