映画化で話題『ある閉ざされた雪の山荘で』東野圭吾 原作のあらすじと感想 ネタバレあり

 

感想 ★★★★★

言わずと知れた大人気ミステリ作家・東野圭吾が書いた本格ミステリ。結構古い作品ですが、今回映画化されたと聞いて久しぶりに再読してみました。

僕の中で東野圭吾の山荘ものといえば、本書と『仮面山荘殺人事件』。

『仮面山荘殺人事件』の方が面白かったと記憶していましたが、改めて今読んでみると本書も普通に面白かった。

やはり東野圭吾の本格系の作品は好きですね。

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あらすじ

有名演出家のオーディションに受かった男女7人の劇団員が山荘に呼び出された。そして彼らは妙な設定を与えられる。

『ここは雪に閉ざされた山荘で、外部とは隔絶されている。もし外部と連絡を取ろうとしたら、オーディションは失格とする』

風変わりな演出家はどうやらここで舞台稽古をするらしい。まるでミステリ小説のような設定だ。

案の定、一人また一人と殺されたという体でメンバーがいなくなる。

この趣向を彼らは当初面白がっていたのだが、次第に疑心暗鬼に陥る。

本当にこれは芝居なのだろうか、もしかしたら本当に事件が起こっているのではないか。

それでも彼らは外部と連絡を取ることはできない。もし芝居だった場合、失格となってしまうからだ。

仕方なく様々な可能性を考慮して推理を進める彼らは、予想外の真実に辿り着くのだった。

 

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感想

雪に閉ざされた山荘で連続殺人が起きる――、まさに王道のクローズドサークルの設定。

ただし、本当は雪なんて降ってないし、電話も普通に通じる。そんな擬似的な設定にもかかわらず、失格になりたくない一心で、本来と変わらない状況になっているのが面白い。

そして、ただそういう趣向になっているだけではなく、それがトリックにもストーリーにも重大な意味を持ちます。

この設定でないと成立しない話で、ミステリとしても小説としても上手さが光る作品。本格系作家と比較しても全く見劣りしません。

さすが東野圭吾といったところ。まあ、もともと本格作品でデビューした人ではありますけどね。

本書の最大の見せ場は文庫の裏表紙にもあるように、驚愕の終幕にあるわけですが、再読してみると構成と文章の上手さに目が行きます。

初読の時は確か綺麗に騙されたと思う。その辺りのことはネタバレにて。

トリックばかりに目が行きがちですが、ストーリーやキャラクター造形もよく出来ています。

ただトリックが凄いだけじゃなく、物語としてちゃんと楽しめます。この辺りも東野圭吾らしい。

主人公の久我は外面は礼儀正しいのに、内心では毒舌のオンパレードで、あまり良い性格とは言えない。

そういうキャラの場合、普通は嫌いになりそうなものだけれど、不思議と読んでいて不快感を覚えません。

最後には結構良い奴にすら思えてきて、キャラ立ちした良い探偵役だった。

他のキャラについても類型的に見えて裏の顔があったりと、人間味を感じるリアリティがありました。

初読の時はトリックの方が印象に残りましたが、再読ではキャラやストーリーの方が印象的でした。

トリックは巧みだったし、動機についても納得できたし、不満に感じる部分がない作品。

とはいえ、強烈な魅力を感じるタイプとも少し違って、何というか、綺麗にまとまった上手い作品という印象ですね。

 

あとがき

はたして本作をどんな風に映像化しているんでしょうね。

トリックはもちろんのこと、久我の内面描写を含め、本で読んでこそ面白い作品だと思うので、非常に気になるところ。

 

 

ネタバレ

本書の驚きポイントは、連続殺人がすべて芝居だったこと。そして麻倉雅美が潜んでいて全部見ていたこと。この2点。

これを成立させるために実に様々な工夫が凝らされていました。

中でも一番驚かされるのは、三人称視点だと思っていたのが、実は麻倉雅美の一人称視点だったこと。

本格ミステリでは、三人称の地の文で嘘を書いてはならないというルールがあります。

そしてその三人称視点の時に、実際に殺されたとしか思えない描写がされているのです。

第一の殺人に至っては、〝死体をひきずった〟と書かれています。

なので読者は、「ああ、この連続殺人は本物なんだ」と認識します。そして登場人物たちが、芝居が事件か分からず右往左往する様子を楽しむ、という構図。

その認識で読み進めていたのに、最後になって突然、「実は全部芝居でみんな生きている」と明かされます。

当然のことながら読者は混乱してしまいます。

いやいや、地の文で死体って書いてたじゃん。いったいどういうこと? まさか誤植? 

とパニックになったところで、〝私〟という一人称が出てきて、「あッ」と声を上げてしまいます。

一人称視点なら死体と書いてもルール違反ではないですからね。

見事にやられたぁとなります。

視点を誤認させるトリックはいろいろありますが、三人称が実は一人称だったというこのトリック。

僕がこれに初めて出会ったのは、おそらく本書が初です。

まあ、過去の一時期に大量に読んでいたので、もしかしたら前後している可能性はありますが。

とにかく凄くユニークなトリックで記憶に残っていたのは確か。僕の中でこのトリックといえば本書ですね。

最後に映画化に関して言わせてもらうと、麻倉雅美役が森川葵は違うと思う。彼女はどう考えても美女でしょう。

麻倉雅美は役者として天賦の才がありながら、容姿が劣っていた。華がなかった。

それが本書では大切なキーポイントになっています。にもかかわらず、これでいいのだろうかと首を捻ってしまう。

確か本文中の台詞に、「麻倉雅美がオーディションに落ちたのは審査員が容姿しか見ていないから」みたいな発言があったと思います。

それがそっくり映画のキャスティング担当に当てはまりそうな気がしてならない。

映画では多少設定を変えているだろうし、上手いっていればいいんですけどね。

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