『まほり』高田大介 民族学好きにおすすめのミステリーホラー

hebi

感想 ★★★☆☆

恐ろしい因習が残る山間の村を舞台にした民族学ミステリー。ミステリーというより、サスペンスとかホラー寄りですね。
民族学がテーマの小説としては、とても満足度が高く星5つなのですが、エンタメ小説としてみると平凡かなあという気がします。
民族学に興味があるかどうかで、感想は大きく変わって来そうです。
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あらすじ

都会から田舎へ引っ越して来た中学生の淳は、ある日、山奥で魚釣りをしている時に世にも美しい少女と出会う。しかし、どこか様子がおかしい。時代錯誤な和服を着ているし、知的障害があるようなのだ。
淳が驚き戸惑っていると、山奥の集落に住む男がやって来て、少女をひっぱたいた挙げ句、強引に連れ去った。
何が起きたかわからず、淳はその一件を忘れようと努める。だが、少女の美しい姿が脳裏に焼き付いて離れない淳は、独自に彼女と集落について調べるのだった。
一方その頃、都内の大学に通う大学生の勝山裕は、蛇の目と呼ばれる紋の謎を追っていた。その紋と己の出自に、深い関わりがあると目されたからだ。
調査を進める内に、群馬の山奥の神社が関係していると突き止め、現地に赴く。そして、そこで幼馴染みの香織と再会を果たし、二人で紋の謎を追う。
問題の神社があるのは淳の住む田舎の付近で、ほどなくして裕たちと淳は協力関係を結ぶ。それぞれの話を付き合わせた結果、集落にある神社がすべての鍵を握ると判明。
少女はいったい何者なのか、蛇の目紋の謎とは、すべての謎はその地に古くから伝わる因習に隠されていた。
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民族学について

禍々しい田舎の因習の話といえば、エンタメホラーをイメージする人も多いと思います。本書はそういうのとは若干異なります。
大筋はそんな感じで進むものの、エンタメ的な造りに特化していません。民族学関連の考察がもの凄く多いのです。
過去にこういう出来事があって、それについての資料はこれに記されている、といった具合でソースを明らかにしつつ展開していきます。
加えて、古文を現代語訳しながら進めて行く徹底ぶり。こういうシーンが結構多いので、テンポがいいとは言い難い。
個人的には勉強になったというか、詳しく調べてみたいと思う事柄が発見できたので良かった。
江戸時代の四大飢饉、廃仏毀釈、国家神道、名前は知っていても詳しい経緯は知らないので、それについて書かれた本を読みたくなりました。
明治政府の政策については、調べてみるといろいろ面白そうですね。そういう意味で知的好奇心をくすぐられました。

ストーリーについて

サスペンスやホラーは、スピード感やリーダビリティの高さも重要と思います。本作の場合、上記に挙げたような事情もあって、それらは犠牲にされています。
物語の山場も少々盛り上がりに欠けますね。何というか、真面目過ぎる気する。
このジャンルの場合、そんな馬鹿なと思うようなことがあっても問題にならないというか、むしろ何かしらあった方が、爽快感が出て面白いと思うんですよね。もちろん限度はありますが(笑)。

その辺の匙加減をどうするかも、作家の腕の見せ所じゃないでしょうか。まあ、この作品はとことんリアリティを追求したのかもしれませんが。

僕の好みを言わせてもらうと、もう少しはっちゃけて欲しかったです。
それと、最後があっさりしすぎているように感じました。ラストの淳と少女の描写ですね。祐と香織の方は良いとして、淳の方が物足りない。
淳が少女と出会ったところから始まり、彼女を救出するための物語でもあったのに、あっさりし過ぎじゃないでしょうか。
淳の気持ちが報われる報われないの問題じゃなくて、その点についての言及がなさすぎる。これじゃあまるで、たまたま家に遊びに来た親戚の子のようだ。
思春期の淳は、もっと複雑な思いを抱えているに違いない。あんな経験をしているんだから。これからどうなるのか、とか色々あるはずだ。
それに触れないのは、あっさりを通り越して不自然にすら感じました。法律について書くのも良いですが、キャラの心情を書いて欲しかったです。

あとがき

本書は民族学が好きな人にとっては、堪らない一冊だと思います。小説でこんな風にソースを示しながら考察するってなかなかないです。
逆に民族学に興味が無くてストーリーを追いたい人は、長く感じるかもしれませんね。

コメント

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