『トンコ』雀野日名子 知られざる粒ぞろいの短編集

子豚

感想 ★★★★★

『トンコ』は第15回ホラー小説短編賞を受賞した作品。本作には『トンコ』を含む三つの話が収録されています。


どの作品も面白いので買って後悔することはありません。短編集の場合、表題作は面白かったけど他は微妙だったなんてことがありますもんね。本書の場合、それぞれ読み味も違って、尚且つ、面白いのでお得です。

受賞作はもちろん他の二つも良く出来ており、むしろこちらの方がドラマ性があって読み応えがありました。『ぞんび団地』も『黙契』も名作と言って過言ではないと思う。

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感想

三作ともホラー小説でありながら絆をテーマにしているのが特徴です。 『トンコ』では豚の兄弟たちの絆、『ぞんび団地』では家族、そして『黙契』では兄と妹の絆が描かれています。

『トンコ』の選評にある通り純文学を読んでいるような気持ちになります。本作『トンコ』のあらすじは以下の通り。

豚を運んでいたトラックが横転して、そこから一匹の豚が脱走する。兄弟たちの匂いを頼りに各地を彷徨い歩くトンコ。だが、なかなか会うことができない。

さまざまな困難を乗り越えやっとの思いで兄弟と再会するのだが……。

この作品はホラー小説ではないです。恐怖を描いたストーリーではないし、怖いと思うような描写も一切ありません。ブラックな皮肉を込めた『ベイブ』という感じ。

なのでホラーが苦手な人でも安心して読めます。結末は予想通りでしたが、豚の冒険だけで最後まで飽きずに読ませる力が凄い。心理描写はないのに豚の気持ちが伝わって来る上手い作品でした。

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あとがき

どの短編も甲乙つけがたいですが、あえて好きな順をあげるなら、『黙契』、『ぞんび団地』、『トンコ』ですかね。

三作共に切ない読後感で、いろいろ考えさせられます。もっと多くの人に知られるべき短編集だと思う。

ホラー小説大賞といえば人気作家を多く輩出していることでも有名。貴志祐介、小林泰三、 岩井志麻子などそうそうたるメンバー。

最近は短編賞が廃止され、応募数も少なくなっているので小粒な賞になった感はありますが、これからも新たな才能を発掘してくれることを期待します。

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