トラウマレベルのホラー短編集 『姉飼』 遠藤徹

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感想 ★★☆☆☆

第10回ホラー小説大賞を受賞した『姉飼』をはじめ四編が収録されたホラー短編集。かなり好みが別れると思います。

ホラーが苦手な人はトラウマになる可能性があります。反対に好きな人は絶賛するでしょう。『姉飼』と『妹の島』は特にクオリティが高いです。現に『姉飼』はホラー小説大賞を受賞していますので、折り紙付き。

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あらすじ

『姉飼』

ある祭りの夜、的屋で売られていた〝姉〟と呼ばれる生き物にどうしようもなく惹かれた少年は、成長してからついに姉を手に入れることに成功し、二人だけの禁断の生活にのめり込んで行く。

『キューブ・ガールズ』

あるカップルが喫茶店で話していた。男が女に「実を言うと君はキューブ・ガールズなんだ」と告げる。キューブ・ガールズとは人間と瓜二つのセクサロイド。記憶を失くしている彼女は自分が本当にセクサロイドなのか不安に陥る。

『ジャングル・ジム』

公園でいつも多くの人を癒していたジャングル・ジムはある日、一人の女性に恋をする。それがきっかけで善良だった彼は徐々に変化する。

『妹の島』

果樹園で栄える島を牛耳るのは性格が破綻した一族で彼らはやりたい放題だった。それでも脛に傷のある使用人たちは他に行くあてもなく言いなりになるしかなかった。そんなある日、一族の長男が無残な遺体で発見される。残った兄弟たちは過去にこの島で死んだ少女のことを思い出す。自分たちが彼女に行った悪事のことを。それから兄弟たちが次々殺されていき、島は崩壊の一途をたどる。

短編ホラー小説をお探しならこんなのもあります。

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考察しがいのある独特な世界観

端的にいうなら『姉飼』は拷問、『キューブ・ガールズ』はセクサロイド、『ジャングル・ジム』はストーカー、『妹の島』は虫、って感じです。なのでこれらのワードで食指が動いたならば、読んでみることをおすすめします。

僕の好みじゃなかったので星二つにしましたが、どの話も独特で興味深いです。四編ともそれぞれテーマが違っていて、読み応えもあります。

他に類を見ない世界観なので星五つをつける人も多いでしょう。全然納得できます。

僕の好みじゃなかった理由は、拷問やら虫やらが出て来たのと四作とも女に関する話だったから。どれも男のゆがんだ欲望が根底にあり、正直そういう系のホラーは好きではないです。

心霊系、あるいは狂った人間の話でも、精神的にぞっとするような話なら大好物ですが。

『姉飼』と『妹の島』に関しては世界観もさることながら、ストーリーもしっかりしていて濃密です。結末が予想できるとはいえ、ミステリではないのでたいしてマイナスとはならないでしょう。小説としてよく出来ていると思います。

二つの作品には生理的な嫌悪感を抱くシーンが多々あり、換言すればそういう描写が上手いと言えます。どんな描写に人は嫌悪感を抱くのか、著者はそのことを知り尽くした上で、計算して書いている印象を受けました。

どんな描写もへっちゃらという猛者の方は是非お手にとって下さい。奇抜な小説ゆえ、好きな人は心を掴まれる可能性があります。ホラー小説に精通した方なら、いろいろ考察できるかもしれませんね。

あとがき

余談ですが『キューブ・ガールズ』を読んでいる時に、三島由紀夫の『雨の中の噴水』を思い出しました。その作品は彼女に別れ話をするために――その一瞬のシチュエーションを味わいたいがために――彼女と付き合ったという男の話。

女の方は当然わんわん泣くのだけれど、男の方は冷めきっています。ユニークな視点だと思うし、雨と噴水の描写が秀逸だったと記憶しています。たかが噴水でこんな表現ができるのかと。

三島由紀夫らしさが感じられる良作だと思う。とても短い作品ですぐに読めるおすすめの短編です。

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