
感想 ★★☆☆☆
本格ミステリ作家として有名な綾辻行人の、初期作品を集めたホラー短編集。収録されている七つの話は、怪談テイストのものやミステリ的な驚きがあるものまで様々。男女関係を描いたものが多かったですね。
表題作の『眼球綺譚』と『再生』が面白かったです。
『再生』
愛する妻は世にも不思議な特異体質の持ち主だった。体の一部を失っても、また元通り再生するのだ。そんな妻がクロイツフェルト・ヤコブ病に冒されてしまう。日に日に症状が悪化する中、彼女が命に関わるほどの大怪我を負ってしまう。その時、夫はある方法を思い付き実行に移すのだが――
『呼子池の怪魚』
主人公の男が山奥の池で奇妙な魚を釣り上げる。何となく家に持ち帰り飼っていると、その魚は姿を変容させ始めた。男は気味悪がって捨てようとするのだが、妻は溺愛していた。
子供が産めない体質だったがゆえに、我が子のようにかわいがっていたのだ。ある日、その魚の処遇を巡って、夫婦の間に決定的な亀裂が生じる。
『特別料理』
普通の食事に飽きていた夫婦が、特別な料理を提供する店を訪れる。そこで提供されるのは他では味わえない一品ばかり。その店を大変気に入り常連客となった夫婦へ、店側からある提案をされる。その料理の食材は思いもよらないものだった。
『バースデー・プレゼント』
誕生日を迎えた主人公の女は、恋人や友人たちからプレゼントを渡される。だが、それには秘密があった。
『鉄橋』
男女の仲良し四人組が夜行列車に乗って旅をしていた。鉄橋に纏わる怪談話で盛り上がる中、メンバーの一人がトイレに行ったきりなかなか戻ってこない。心配になって探しに行ってみると――
『人形』
病気療養のため田舎の実家に戻ってきた男が犬の散歩をしていると、犬が人形をくわえ戻ってきた。男はその人形を気まぐれで家に持ち帰る。しかしそれが間違いだった。何の変哲も無い人形だったのが、
徐々に変化し始めるのだった。
『眼球綺譚』
出版社で働く男の元に、旧友から短編小説が送られてくる。〝読んで下さい。夜中に一人で〟と但し書きがあり、タイトルは『眼球綺譚』となっていた。内容は古い洋館を舞台にした話で、精神に異常を来した女や猟奇事件のことが書かれていた。
創作か事実か判然としない妙にリアルで気味の悪い話だった。旧友はなぜこんなものを突然送ってきたのか。読み終えて戸惑っている男の元で異常な出来事が起きる。
感想
本書は各短編で面白さに差がありました。『再生』が一番面白くて、その次が『眼球綺譚』、それ以外はどれも今一つでした。
『再生』と『眼球綺譚』後述するとして、他の短編はどれもラストが呆気なかった。ホラーなのでミステリのように白黒はっきりさせず、ぼんやり終わらせるのは別に良いと思うし僕も好きです。
ただ、その場合は余韻を感じられるようにして欲しい。本書の短編は呆気ないというか、あっさりしていて結局何だったんだとなってしまう。内容的にも真新しさはなくてよくある感じです。
それらの短編に比べて『再生』と『眼球綺譚』は奇抜で面白かった。『再生』はミステリ的なギミックが効いていて意外性が感じられるし、怖さもあります。
ミステリ作家らしさが発揮されたホラー小説に仕上がっていて好きですね。僕がミステリ好きというのもありますが、やはり最後が決まっていると気持ちがいい。内容的にはグロいですが。
好きなのは『再生』の方だけれど、読み応えという意味では『眼球綺譚』の方が上ですかね。作中作の内容だけでも充分一つのホラー短編として成立するのに、それを作中作として使用することで、より一層怖さを出していましたね。こういう構成の仕方にもミステリ作家らしさを感じます。
『再生』と『眼球綺譚』にはそういう作家らしさ、綾辻行人らしさが出ていて好きです。
あとがき
一冊として見るとはずれが多かったので感想は星二つにしましたが、『再生』と『眼球綺譚』で楽しめたので不満はありません。
『特別料理』に関しては、虫系が苦手な僕にはきつかった。同じように虫が苦手な人は読まない方が無難です。
全部が面白いホラー短編集をお探しの欲張りさんには、下記の作品をおすすめします。本当に粒ぞろいなので買って損はないです。


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