今邑彩『よもつひらさか』は『世にも奇妙な物語』好きにおすすめ

torii

感想 ★★★★★

12の話が収められたホラー短編集。それだけ多くの話があるのに、どれも面白くておすすめの一冊です。特に『世にも奇妙な物語』が好きな人は気に入ると思います。

実際、『世にも奇妙な物語』で映像化された作品が二つ収録されているし、他の作品も同じようなテイストで映像が浮かんでくるようです。
原作になっている短編は『穴二つ』と『家に着くまで』の二つ。『世にも奇妙な物語』の作品としても
人気があるようですね。

『見知らぬあなた』

近所でバラバラ殺人が起きたというニュースを見た主人公は、被害者と加害者に心当たりがあった。詳細が報道されるに従い、その思いは強まり、最後に驚きの結末が明らかになる。

『ささやく鏡』

祖母の遺品から出てきたのは、未来を映し出す不思議な手鏡だった。その手鏡を譲り受けた主人公は、人生の岐路に立たされた際に覗き見て、どう行動すべきかを判断していた。しかし主人公には、気になることがあった。祖母は死の間際にこう語っていたのだ。

「けっしてむやみにあの鏡を見てはいけないよ。あれは恐ろしい鏡だから」

『茉莉花』

小説家の主人公は自分の本名である茉莉花という名前を忌み嫌っていた。それにはとある訳があって――

『時を重ねて』

妻の浮気調査をしてほしい。そう依頼された探偵が問題の妻を尾行していると、彼女はなんとも不思議な行動を取る。その真意には切実な理由が隠されていた。

『ハーフ・アンド・ハーフ』

何でも半分こにしないと気が済まない妻との離婚が決まった主人公。そこで夫妻は相談しながら、家財道具などを二つに分類していく。しかし、夫妻にはお互い譲りたくないものが一つあった。

『双頭の影』

ある寺院の天井には不気味なシミがあり、その寺の子供はそれを酷く恐れていた。本能的な忌避感を覚えるそのシミのには、恐ろしくも悲しい事情が隠されていた。

『家に着くまで』

家に帰るためタクシーに乗り込んだ主人公は、運転手とたわいない話をしていた。そのうち、最近起きた殺人事件に話がおよび、二人は事件の推理を始めることに。次第に話は核心に迫っていき――

『夢の中へ』

現実に嫌気がさしていた少年の唯一の救いは夢の中だった。夢の中は自分の望む世界そのものだった。そこで少年はずっと夢の中にいる方法はないかと思案する。そしてついにその方法を見つけ、実行するのだが――

『穴二つ』

妻に飽きていた主人公の男は、ネットの掲示板で浮気相手を探していた。程なくして若い女とやり取りするようになるのだが、その人物はストーカー気質で次第に言動が過激になっていく。薄気味悪さを感じた主人公は、そこで一計を案じる。

『遠い窓』

事故に遭って意気消沈する娘のために、父は海辺の洋館へと引っ越した。娘はその家を大変気に入り、壁に掛かる風景画も大好きになった。やがて娘はその風景画が変化しているのに気付く。絵の中に誰かが住んでいる――

『生まれ変わり』

ある日、男は理想の女性と知り合う。その女性は過去に将来を誓い合った人にそっくりだった。死んだその人の生まれ変わりに違いないと男は思った。そしてお近づきになるために、様々な戦略を練るのだった。

『よもつひらさか』

疎遠になっていた娘に会うため、初老の男は田舎町にやってきた。そこで地元の若者と知り合い、二人で長い坂を一緒に上り始めた。その坂を上れば娘の家はもう目の前だ。世間話をしながら歩いていると、若者はこの坂にまつわる怪談を語り始めた。それは田舎町ならどこにでもある類いの、迷信めいた怖い話に過ぎないと思われたのだが――
スポンサーリンク

感想

どの話も結末はだいたい予想が付きます。それでも何ら問題なく楽しめました。意外性という意味では『茉莉花』で一番感じた。てっきり幽体離脱系の不思議話と思っていたので、そう来たか、という感じ。
『穴二つ』のオチも意外性はかなりのものなのですが、僕は先に『世にも奇妙な物語』を見てオチを知っていたので、驚きは得られなかった。話としてはとても面白いし、切なさも感じられて印象に残る短編でした。
もう一つの原作である『家に着くまで』も、ミステリ好きとしては見過ごせない。映像化したくなるのも頷ける設定。
『世にも奇妙な物語』といえば、『ハーフ・アンド・ハーフ』とネタがまるかぶりした話を見たことがあって、てっきりこれが原作だと思ったら違ったようです。それほど似ています。

もし『世にも奇妙な物語』の方を見てなかったら、かなりのインパクトを得られるでしょうね。『世にも奇妙な物語』の方はかなり古いので、おそらく見ている人は少ないと思う。今となっては見る手段もないでしょうし。
粒ぞろいの短編集ですが、中でも表題作の『よもつひらさか』と『双頭の影』が特によかったです。『よもつひらさか』の方は怪談らしい怪談というか、怖い話としてよく出来ています。情緒があると言いますか、怖い話のお手本といって過言ではないでしょう。完成されていると思う。
『双頭の影』の方は、天井に謎のシミがある理由、奇妙な形をしている理由にしっくりいったし、内容の方も印象深い。そして、物語の構成にも凝っています。核となる話を現在進行形で綴るのではなく、こういう見せ方をしているところに、作家としての技量を感じました。

総評

以上のようにそれぞれ味の異なる短編がそろっていて、非常におすすめの一冊です。怖い話、奇妙な話、ミステリーっぽい話を探している人に打って付けの短編集です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました