感想 ★★★★☆
学生アリス シリーズの第三弾。今回の作品は文庫で七百ページ近くある大長編となっています。
この作品から読み始めても問題ありませんが、その前に『月光ゲーム』と『孤島パズル』を読むことをおすすめします。その方がより楽しめると思います。
前作から繋がる部分が多少あるため、主な登場人物の推理研究会の面々や、マリアのキャラクターを理解しておいた方が、すんなり物語に入っていけるでしょう。
本作はページ数も多いが登場人物も多いです。総勢二十名ほどでしょうか。したがって、推理研の面々を理解しておけば、新しく把握する人物が少なくて済みます。
あらすじ
人里離れた四国の奥地にある、芸術家たちが暮らす木更村。心に負った傷を癒すため一人旅をしていたマリアは、その村に興味を抱き訪問する。そしてそのまま戻らなくなる。
不審に思った両親は、推理研のアリスたちに様子を見てきてほしいと依頼する。二つ返事で快諾したアリス達一行は、すぐに出発して木更村の隣にある夏森村に到着する。
木更村に入ろうとするアリス達だが住民によって拒否されてしまう。一計を案じた彼らは、大雨の夜に木更村への侵入を試みる。アリス達は追い返されてしまうも、江神はうまく侵入しマリアと再会。
夏森村へ戻ったアリス達は江神からの連絡を待つ。と、そんな折、二つの村にかかっていた唯一の交通手段である橋が決壊し、二つの村は分断されてしまう。嵐により電話も通じなくなる。
そんな中、二つの村でそれぞれ殺人事件が発生。木更村では江神とマリア、夏森村ではアリス達が事件解決へ向け奔走するのだった。
感想
あらすじが少々長くなりましたが、それくらい重厚な作品です。
今回の作品ではアリスのパートとマリアのパートの、二つに別れた構成になっています。それぞれの話が交互に語られながら物語が進行します。
過去のシリーズ作では読者への挑戦状が挟まれていましたが、本作でもあります。しかも、三つも挿入されている! 木更村、夏森村それぞれの事件の犯人が分かる前と、すべての全貌が明らかになる前のところにあります。
恥ずかしながら僕は一つも当てることができなかった。残念! 後一歩のところまでは迫れたのだですが……。
有栖川作品らしく、事件は論理的に解決されます。ロジックの部分には何の不満もありません。だから星五つにしようと思ったのですが、ちょっと待てよと思い直しました。
これだけの長編にしては、何だかちょっと地味ではなかったか、という気がして来たのです。否、地味と言ったら語弊があるかもしれません。何と言えばいいんでしょう……。
素晴らしい大長編を読んだ後というのは、ある種の感動があると思うのです。泣けるとかそういう限定的な意味だけでなく、喪失感に似た余韻というか、深い感慨めいたものが込み上げてくるものだと、僕は考えます。
本作ではさほどそれを感じられなかったので星四つとしました。とはいえ、ミステリとしての出来は申し分ないので、名著といっても過言ではないでしょう。作者の代表作と言われているのも納得です。
あとがき
このシリーズでは青春ミステリーシリーズで、前二作ではその良さが遺憾なく発揮されていました。本作の場合、状況が状況だけに青春っぽさはあまり感じられません。緊迫感が漂う本格ミステリでした。
ミステリ好きは必読の1冊ですね。
コメント