感想 ★★★☆☆
実話怪談テイストのホラー小説。主人公が小説家で、著者・加門七海の実体験かのような作りになっています。
そうであっても不思議ではないくらいリアリティがある反面、劇的な演出等がないため、ホラー作品として満足できるかは、好みによって変わりそうです。
ありえないと感じほどの嘘っぽさはなくて、そういう意味では実話怪談としてレベルが高いといえるでしょう。
僕の好みとしては、もっと刺激的な恐怖演出がある方が好きなので、少し物足りなさを感じました。
あらすじ
ホラー作家の鹿角南(かづのみなみ)は、肝試しに関する話を執筆中だった。しかし、なかなか筆が進まず軽いスランプ状態に。
そんな折、旧友からメールが送られてくる。曰く、肝試しに行ってから様子がおかしいとのこと。
小説のネタになるかもと思い、鹿角は話を聞くことにするのだが、すぐに後悔する。それは関わってはいけないレベルの禁忌だった。
やがて彼女にも霊障が現れ、怪異の謎を調べる内、次々と予期せぬ事実が発覚するのだった。
感想
本作は幽霊や化物が出てくるタイプのホラーではないし、ポルターガイストなど超常現象が起きるわけでもありません。
そういう派手な演出を求める人にはおすすめできません。
じわじわ来る恐怖、もしかしたらこういうことはあるかもしれない、そんなリアルさを求める人向けです。
肝試しを行ったメンバーが徐々におかしくなっていく様は、太った、妙にテンションが高くなった、見た目を気にしなくなった、という具合で、心霊現象と無関係でも起きうる変化。
普通ならもっと過剰におかしくしそうです。なのにそうしていないところに、もしかしたら本当に体験したんじゃないかと思わせてくれます。
鹿角に降りかかる霊障にしてもそう。悪い夢を見るとか急に腹痛に襲われるとか、誰しもが体験したことのある体の不調です。
そんな風に霊障を思わせる描写が現実的なので、実体験を語ってる感がとても強い。
タイトルにある通り祝山が怪異に関係しているわけですが、そのモデルとなった山も肝試しを行った廃墟も実在しそうです。
祝山の名称については、こういう言い換えはホラーや民俗学系ミステリを読んでいるとよく目にするので、驚きはなかった。
祝山が禁忌とされるようになった原因、根源まで追求されてなかったので、そこは残念ですね。なぜ祝山がそうなったのか知りたいところなのに。
こういう言い換えは現実世界でも行われているだろうから、それについて書かれた本があれば読んでみたいですね。
あとがき
最近『花嫁の家』という実話怪談を読んだため、自然と比較してしまったのですが、ある意味対照的でした。
『花嫁の家』は、とてもじゃないけど実話とは思えないぶっ飛んだ話。でも怖さと異常さを感じられて、エンタメホラーとして大満足でした。
対して『祝山』はあってもおかしくないと感じられるほどリアル。ただ、そうなっているが故に、突き抜けた面白さや怖さがなかった。
どちらもそれぞれ良さがあるので、やはり好みですかね。
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