『十三角関係 名探偵編-山田風太郎ミステリー傑作選2』あらすじと感想

感想 ★★★★★

本書は探偵の荊木歓喜が活躍シリーズの作品集。表題作『十三角関係』以外にも面白い作品が含まれているので、大変お得です。

『十三角関係』がタイトルになった本がいくつかあるので、購入する際はよく調べた方がいいです。光文社から出ているこの作品集がベストだと思います。

全9編の内、特に面白かった4編のあらすじと感想を書きたいと思います。その前にまずは探偵の紹介を。

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探偵・荊木歓喜

荊木歓喜は現代のミステリによくあるような、容姿端麗で頭脳明晰という、非の打ちどころのない探偵とは真逆のキャラです。

ボロアパートに住む酔いどれ医師で、売春婦の堕胎を専門としています。肥満体質で頬には大きな傷があるという容姿で、わざとかと思うくらい正反対。そこが山田風太郎らしいですね。

そんな怪しげな人物ながら、推理力は抜群でヤクザや警察かも一目置かれている。普通こんな感じだと好感を持てないはずなのに、荊木に関しては好感を持てるんですよね。他に類がないとてもユニークなキャラ。

ミステリにおいて探偵のキャラはとても重要なので、そういう意味で荊木歓喜は申し分ないですね。

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各話のあらすじと感想

『抱擁殺人』

幼い頃、整形手術によって顔を畸形に変えられてしまった半太郎。成長した彼は富豪の家に奉公に出る。半太郎はそこの美しい令嬢に儚い恋心を抱いた。

ある時彼は、自分の顔がこうなってしまった原因を知り苦悩する。それでも仕事に精を出す半太郎だったが、その家の主人が死体となって発見されると、半太郎に疑いの眼が向けられる。だが彼には鉄壁のアリバイがあった。

トリックどうこうより、整形手術に関する話が印象に残りました。見世物として売るために、惨たらしい人体改造が行われるとは 、何とも恐ろしい話です。

かつての中国でそういうことがあったという話は聞いたことありますが、この小説に登場するエピソードは初めて聞きました。それが史実か創作かは分かりませんが、とても記憶に残りました。

物語自体は悲しくて胸糞が悪い。半太郎も令嬢もかわいそうだ。

『西条家の通り魔』

閻魔紳士と名乗る人物から、頻繁に誘拐予告が来る西条家。実際に子供が何度か誘拐されそうになったこともある。

不安に震えていた西条家にある日悲劇が起きる。幼い子供が何者かに撲殺されてしまうのだ。遺体のそばには、閻魔紳士からの置き手紙が残されており、そこには自分がやったと書かれていた。

実際可能かどうかは別にして、その殺害方法が突飛で印象的。 犯人はわかりやすいけれど、なかなかよくできていると思います。

『帰去来殺人事件』

同じアパートに住む狂人を追って、荊木歓喜はある村に辿り着く。その村には歓喜の古い友人の千葉がいて昔話に花を咲かせていた。

そんなある日、村の実力者の家で殺人事件が起きる。その謎を解こうと奮闘する歓喜と千葉の前で新たな殺人が起きてしまう。

はたして事件の真相は何なのか、そして狂人はどこに消えたのか。驚愕の結末が待ちうける。

探偵役の荊木歓喜が深く関わる事件。物語も良くできているし、なんと言ってもトリックが秀逸。ミステリとしても読み物としても完成度が高い傑作ですね。

『十三角関係』

売春宿を営む女主人のバラバラ死体が発見される。捜査の末、事件が起きる直前に、七人の客が主人を訪ねていたことが判明する。しかし時間的な問題などから、いずれの人物にも犯行は不可能に思われた。この奇怪な事件に名探偵、荊木歓喜が挑む。

冒頭の陰惨な描写によって一気に引き込まれました。本格ミステリによくある派手な遺体のみせ方でした。その後、事件の関係者の供述を順番に聴いて行くので、やや中だるみしますが、終盤で明らかとなる事件の真相には、眼を見張るものがありました。

様々な本で表題作になるのも納得の作品。

総評

本書に収められた中で一番良かったのは『帰去来殺人事件』。これはもう傑作といって間違いないだでしょう。ストーリー、トリックともに素晴らしいです。

長編の『十三角関係』もミステリらしい骨格をもった上質な作品。ミステリファンならこの二つの作品には必ず満足に違いありません。

『抱擁殺人』と『西条家の通り魔』の二つも、読み応えあります。

その他の作品の出来、完成度にはバラつきがありました。面白い作品もあればそうでない作品もあります。しかし、どんな作品にも何か一点、興味を惹かれる部分があるのはさすがでした。

総合的には面白くなくても、動機、キャラクター、トリック、あるいはその他の部分に、何か魅力的なものがあるので、読んで後悔することはありません。

ただひとつ注意が必要なのは、面白いと言っても読んで気持ちのいいタイプの話ではないということ。どの作品にも決まって不幸な女性が登場するので、そういう意味では胸糞の悪い話ばかりです。

あとがき

特異な才能の持ち主である著者の魅力が詰まった作品集でした。いろんなジャンルを書いてますが、ミステリでもこれだけ上質で、山田風太郎らしさが発揮された作品を書けるんですね。

その凄すぎる才能に敬服しました。

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