
感想 ★★★☆☆
少女の成長を描いたジュブナイル小説。物語の舞台は荒廃した近未来の日本で、孤独な少女が父親を探して旅に出ます。
ジュブナイル小説なので当たり前ですが、大人向けに書かれた読み物ではありません。普通に楽しめるものの物足りなさを感じてしまいます。
反対に子供向けと考えると、内容的に結構ハードな面もあるし、最後の方はちょっと難しく感じる部分もありそうです。
そうはいっても、王道の少女成長譚なので読書好きの子供には丁度いいかもしれません。
あらすじ
小学六年生の月岡愛は、幼い頃に左腕を犬に噛まれて以来、動かせなくなっていた。そんなハンデを追いつつも、最愛の母のおかげで日常生活に耐えられていた。
だが、ある日母が亡くなり、母子家庭の愛は天涯孤独となった。面倒を見てもらうことになった親戚家族には言いように扱われ、学校では同級生にいじめられている。
そんな状況に嫌気が差した愛は、行方不明の父親を探す旅に出る。手がかりは何も無く、雲を掴むような話。さらに様々な困難が愛に襲いかかる。
それでも人や犬の助けを得ながら旅を続ける愛。彼女はそんな過酷な旅を通して大きく成長するのだった。
感想
今回は初読です。ジュブナイル小説と知らずに読み始めたので、求めていたのとはちょっと違いました。それからはああ、こういう話なのねと、わかった上で読み進めましたが。
自身の癖を排除し、ジャンルの形式に則ったバーションの筒井作品です。
設定や展開は児童文学のお約束とも言えます。辛い境遇にある少女、唯一の理解者である王子様的ポジションの同級生、辛い目に遭うたびにいろんな人に助けられる、などなど。
こういう王道的な話で安心して読める良さがあります。
愛は様々なピンチを迎えますが、決定的なダメージを負うことはありません。
ただ荒廃した世界が舞台ゆえ、人が普通にバンバン死にます。そういう意味で内容自体は結構ハード。
大人が読む場合、予定調和な展開ばかりで先が読めてしまうため、わくわく感は得られません。展開の面白さを求めて読むタイプではないです。
主人公の少女には好感が持てるし、犬たちも活躍するので動物好きの人におすすめ。愛は犬と会話できる能力を持っていて、犬が良き相棒として大活躍します。
孤独な子供と動物のコンビも定番ですね。
そしてこの手の話のお約束として、最後はみんな幸せになります。なので読後感がいい。勧善懲悪の話でもあるので爽快感もあります。
最後の最後で迎えるオチも王道で、これは他の作品で知っている人も多いと思う。
そして予想通りじゃなかったのは、王子様的ポジションの同級生との関係。こんな感じになるんだと、ちょっとリアルに感じました。
それともう一つ、父親の処遇について。これについては筒井康隆らしい毒を少し感じました。ハッピーエンドだと思うけど、こういうハッピーエンドなんだという感じ。
この点については甘っちょろいハッピーエンドとは違います。
完全にジュブナイル小説として書かれた話という印象で、それ以上でもそれ以下でもなかったです。
が、ほんの少しだけ筒井康隆らしさも感じられます。
あとがき
僕はもういい年したおじさんなので、初見で読んだらこういう感想になります。ジュブナイル小説なので当たり前ですね。
一歩引いた目線で見てしまいます。
十代の若い人のための話なので、その人たちが読んだらまた違った印象になるはずです。主人公に自分を重ね、夢中になってのめり込めるでしょうね。


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