名作SF小説『パプリカ』筒井康隆 あらすじと感想

 

感想 ★★★★★

精神医学と夢がテーマの傑作SF小説。筒井康隆の代表作の一つと言って過言ではないでしょう。様々な作品に影響を与えていますね。

筒井康隆は短編が多く、長編でも文庫で200ページちょっとくらいがほとんどだと思う。だから500ページ近くある本作は、そういう意味でもかなり稀有な作品。

アニメ映画化され、そちらの方も傑作との呼び声が高いですね。

キャラが魅力的で展開も面白いのでおすすめです。特に主人公のパプリカはいいキャラ。

SFと言っても現代が舞台だし、ハードSFのような科学的な難しさはないので、苦手な方も問題なく読めます。

そしてホラーとしても読めるので、ホラー好きでまだ読んでいない方は必読です。

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あらすじ

夢を通じて患者の治療を行う、夢セラピーが進化を遂げた近未来。

主人公・千葉敦子は、昼間は冷静沈着な精神科医、夜は〝パプリカ〟という夢探偵として、夢の中に入り込んで患者の深層心理を治療する二重生活を送っている。

ある日、治療用に開発された装置〝DCミニ〟が何者かによって盗まれ、精神を崩壊させる事件が相次いで起きた。

DCミニの副作用によって、次第に夢と現実の境界が崩れはじめる中、パプリカ=千葉敦子は装置の悪用を阻止し、世界を救うべく奔走する。

 

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感想

久々に再読しました。細かい部分は忘れていてほぼ初見と同じ感覚。二回目ですがやはり面白かった。

物語の舞台は近未来の日本。精神医療の分野で夢を用いた治療――夢セラピーが確立されています。

その装置を開発したのは時田浩作。装置を使って治療に当たるのが千葉敦子で、二人はその功績によってノーベル賞候補になっています。

この二人が勤務する病院内には、それを良く思わない派閥があって対立している状況。

物語の展開は、パプリカが患者を治療する形で進んで行きます。それと同時に病院内での覇権争いが描かれる。

患者たちはいずれも社会的地位の高い大物ばかりで、治療を終えた彼らがパプリカの仲間に加わります。

そして派閥争いを繰り広げる中で、彼らが重要な役割を果たすようになります。

各患者の治療シーンでは、夢探偵となったパプリカが患者の夢の中へ侵入し、トラウマの原因がどこにあるのか探っていく。

このパートでは夢探偵と評している通り、探偵することによって謎や原因が徐々に明らかになっていきます。

それはそれで面白いのですが、本書の見所は後半からの怒濤の展開ですね。

時田浩作が新たに開発した〝DCミニ〟。これは画期的な装置で、従来ヘッドセットなどが必要だったものを、手のひらサイズまで小型化したもの。これで所構わず夢の中へ入り込めるようになった。

しかし装着した者の夢へ無制限にアクセスできるため、悪用すれば精神を破壊できる危険さを秘めていた。

そんな装置を盗まれたことによって、とんでもない事態に発展します。

パプリカ側の仲間が何人も精神病に追い込まれ、そればかりか、DCミニの副作用によって、精神分裂病患者の夢が現実に侵食しはじめます。

はたしてパプリカたちはそれを止められるのか、という展開は王道のエンタメとして面白いです。

分裂病患者の夢は悪夢でしかなく、ホラーとしても一級品の面白さ。グロい死に方をする人間も出てきますし、僕にとってはSFよりもモダンホラーの印象が強かった。

夢と現実が解けていく感覚はやはり魅力的で、登場人物たちだけでなく、読者も次第に何が現実で何が夢か判然としなくなっていきます。

筒井康隆の筆力によってその混沌が見事に表現されているのです。

パプリカについてですが、彼女は夢の中のヒーローのような感じですね。見た目にしても活躍にしてもヒーローもののそれのような魅力があります。

登場人物たちもみんな彼女のことを好きになります。さながら逆ハーレムのような感じ。

筒井康隆作品だから少々エロチックな描写もあったりして、そういう意味でも特徴が出ています。

そして現代ではタブーとされる描写もあります。悪夢の中の描写といえど、ナチ式敬礼なんて今だとおそらく書くのは無理でしょう。

本作は一流の娯楽作でありながら、精神病理にも踏み込んでいる名作。

筒井康隆にしか書けない稀有な作品ですね。おすすめです。

 

あとがき

映画の方も見ていますが、この世界観を見事に映像化していて凄かったです。

小説を映像化する場合、何か違うとなることが往々にしてありますが、パプリカに関しては完璧と言えるのではないでしょうか。

パプリカのキャラデザもよかったし、混沌とした状況を視覚化したアニメ表現も素晴らしかった。音楽も秀逸でしたし、文句のつけようがない出来でした。

驚くべきことに、ナチ式敬礼までちゃんと映像化しています。原作へのリスペクトが感じられますね。

初めて見た時は本当に驚きました。小説とは違い映像だとダイレクトですもんね。よくやれたなあと思う。

作品へのこだわり、制作姿勢には感嘆します。

アニメ映画を観てない方、そちらもおすすですよ。

 

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