
感想 ★★★☆☆
日本史上最悪の獣害事件と呼ばれる三毛別羆事件を題材にした作品。当初僕が思っていたのとはちょっと違いました。
実際の事件を題材にした小説と思っていたのですが、小説というよりルポルタージュでした。どうやら記録文学というらしく、事件について知るにはとてもいい。
事件を後世に引き継ぐ、そのための本と言われれば星五つ。
ただ僕は小説と思っていたため、そういう意味では楽しめなかった。何というか、それこそ新聞とか資料を読んでいるような気分に近かったです。
あらすじ
雪深い山奥の開拓村が、突然の悲劇に見舞われる。餌を求めてやってきた巨大な羆により、住民二名が犠牲になったのだ。
村民たちは恐怖と悲しみに暮れつつも、これで終わりだと思っていた。腹を満たした羆はこれで満足して冬眠するだろうと。
だが、人間の味を覚えた羆は再び村にやってきて村民を襲った。そして今度は四人もの死者を出し、三人が重傷を負った。
怒りと恐怖に震える村民たちは各地に救助を要請し、羆の駆除に乗り出す。
警察含む数百人で取り組むも上手くいかず、羆の獰猛さ、賢さに絶望するばかりだった。
そんな状況の中で唯一の希望は、一人のベテラン猟師だった。彼の人間性には問題があって、最初は要請しなかったのだが、このままでは被害が拡大する可能性が高い。
村民たちは意地を捨て、その羆撃ち専門のプロに依頼する。こうして羆とベテラン猟師の戦いが始まるのだった。
感想
三毛別羆事件はとても有名で、事件の概要だけは僕も知っていました。より詳しく知りたいと思い、今回この作品を読んで見ました。
その目的からすると満足です。どんな事件だったのかよくわかりました。発生から収束まで時系列順に書かれていて、理解しやすかったです。
ただ、僕は普通の小説だと思っていたので、少し戸惑いはありました。書き方が事件記事よりで、小説のようになっていません。
記事と小説の中間みたいな感じ。実際にあった事件を題材にした小説とは、タイプが異なります。
特定の主人公がいるわけでもなく、会話文もほとんどない。劇的な物語性も持たせていません。感情を挟まずに事実だけを淡々と綴っています。
だからこそ恐怖を感じるという向きもあるかもしれません。硬質な文体によってリアリティさが増しています。
こんなことが実際にあったのかと恐ろしくなります。ノンフィクションなのに創作じゃないかと思ってしまうほど、惨い話。
動物は本能に充実です。腹を満たすために食うし、より美味いものを食おうとします。なので、脂肪が多くついて肉が柔らかい女性を狙います。
当たり前の話ですが、人間がどんなに懇願しようと羆は容赦してくれません。泣き叫ぼうが、命乞いしようが食べられてしまいます。
どう足掻いたって人間が武器なしで動物に勝つことはできない。羆に関しては銃以外に対抗する術はありません。
そういう当たり前にことについて改めて思い知らされました。
本書では事件の他に、北海道開拓民の過酷な生活についても知ることができます。極寒の地で農作物も碌にとれない、人里離れた場所で慎ましく暮らしています。
現代人からしたら信じられないほど劣悪な環境。漁村とは貧富の差が激しかったらしいです。それでも必死に自分たちの居場所を作ろうと、開拓を続けた人たちは本当に凄いと思いました。
あとがき
事件や開拓民たちの暮らしぶりについて知れたのがよかったです。ただ上述したように小説的ではないので、それを知った上で読んだ方がいいかもしれません。
ストーリー性が豊かとかそういうタイプではないです。小説を読んでいる時のような楽しさは感じられませんでした。
ルポとか実用書を読んでいるような面白さでした。


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