おすすめできるサイコ・サスペンス 『百番目の男』 ジャック・カーリイ

skull (2)

感想 ★★★★☆

連続する異常犯罪を刑事のコンビが捜査するサイコ・サスペンス。こういう系の王道のスタイルで、警察が捜査を進めるうちに徐々に真相が明らかになっていきます。

この小説の売りはなんといっても犯人の意外な動機。これを当てられる人は百人に一人もいないでしょう。いたら大変だ。そのくらい異常だし、一歩間違うとバカミスとも言われかねないほど奇抜。

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事件は猟奇的でグロテスク

あらすじ

主人公は大学で心理学を学び、異常犯罪担当部署に配属されたカーソン・ライダー。

ある日、首なし男の死体が公園で発見され、カーソンは相棒のベテラン刑事ハリーと共に捜査にあたる。死体は検死局に運ばれ解剖されると、他にも異常な点があることが判明する。

死体の陰部付近に謎のメッセージが残されていたのだ。なぜ首がないのか、メッセージが何を示すのかわからないまま捜査をしていると、同じ手口の死体が新たに発見される。

カーソンとハリーのコンビは彼らを目の敵にしている上司と事あるごとに対立しながら、事件の解決を目指し奔走する――。

というのが大まかな内容。これを見てわかるように、事件はグロテスクなので苦手な人は避けた方が無難です。反対に『羊たちの沈黙』や『セブン』みたいに暗くて猟奇的な話が好きという人は、きっと楽しめるはず。

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警察小説としての人間ドラマも魅力

軸となる事件を追うだけの作品はいくつもあるし、それを書ける人は多くいる。けれど、本作はその周りのエピソードにも読み応えがあります。

カーソンは検死局で働く新人の病理学者アヴァに恋をします。彼女は上司のきびしい指導に苦しんでいて、その上アルコール中毒に陥っている状態。カーソンは彼女を救おうとして、様々な困難とぶつかります。

そして、警察小説の定番である組織の確執も描かれています。出世を狙う上司の思惑によって、カーソンたちはたびたび妨害され、あるいは利用され、苦い思いを経験する。そんな思いをしながらこの異常な猟奇殺人の捜査をするのだから大変だ。

カーソンにはまだ問題があって、彼には殺人を犯して精神病院に入院している兄がいる。この兄の存在にもカーソンは苦しめられます。

実はこの兄、常人では理解できない犯罪者の心理を読み解くことができるのです。そのため、カーソンは嫌々ながら意見を聞きに行く。そして、そのたびに精神に深い傷を負う。

殺人者に意見を求めるのは『羊たちの沈黙』のレクター博士を思わせますが、カーソンの兄にそれほどの魅力はなかった。カーソンの人格形成に多大な影響を与えているため、必要不可欠な存在ながら、物語を都合よく進めるための装置にみえてしまいます。

ミステリ小説としての完成度が高い

といった具合にいろんなエピソードがあるのですが、それでもごちゃごちゃしているとは感じず、それぞれの話をちゃんと理解できました。このことからも著者の筆力、構成力の高さが窺えます。

そして読者の興味を殺がないように展開しているのも上手い。導入でいきなり目を引く事件を起こして心を掴み、それからは連続殺人で次々と謎が提示されるので中だるみもしないのだ。

本作は著者、ジャック・カーリイのデビュー作ということですが、そうは思えないほど完成度が高いです。

文章については個人的には少し描写が細かすぎると感じました。人物の見た目や服装、場所の説明、一つ一つの物事をしっかりと描写しているのです。

そのため長い、読みづらいと感じる個所がないではない。これは好みの問題でしょうか。もうちょっとすっきりさせて想像の余地を残してもいいように思います。

犯人の動機に驚愕しました

本書は個人的には満足度の高い作品でした。やはりこの犯人の動機はすごい。すべての謎に説明がついて納得すると同時に、唖然としてしまいましたね。こんなこと普通は思いつかない。

どちらかというとバカミス的な凄さと言えますかね。ロジックが緻密で鮮やかというタイプの凄さではないです。発想力が斜め上をいっています。こういう作品が好きな人は読む価値が充分あります。僕は大好きですね。おすすめです。

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