『クラリネット症候群』乾くるみ 青春ミステリ小説のあらすじと感想 

感想 ★★★★★

『マリオネット症候群』と『クラリネット症候群』の二作がセットになっています。

『マリオネット症候群』は人格転移というSFの設定を使った一風変わったミステリ。『クラリネット症候群』は特定の音が聞こえなくなるという、これまた一風変わった設定の暗号ミステリです。

両作とも主な登場人物は高校生で、青春小説としての面白さもあります。かなり好きなタイプの作品でした。

スポンサーリンク

あらすじ

『マリオネット症候群』

主人公の御子柴里美はある夜、目を覚ますと自分の意思で体を動かせなくなっていることに気づく。好き勝手に動く己の体を見て、自分の中に別の人格が入っていると悟る。

そして、その人格が片思いの相手である森川先輩だと判明。さらに彼が何者かに殺されたことも知る。
やがて森川先輩を殺した犯人が明らかとなり、いくつかの殺人事件が発生。

次第に人格転移の理由と法則が解明され、物語はまったく予期せぬ展開へと進んでいく。

『クラリネット症候群』

主人公の翔太は、校内でも有名な巨乳で童顔の先輩エリに良いところを見せようと、エリの帰り道の河原で、得意のクラリネットの演奏をする。

思惑通りエリと仲良くなり舞い上がる翔太。しかし、そんな楽しい時を打ち破る邪魔者がやって来る。顔見知りの不良三人組である。邪魔されるどころか大切なクラリネットまで壊されてしまう始末。

それが原因となり、翔太はドレミファソラシドの音が聞こえなくなってしまう。

奇特な症状に見舞われ困惑する翔太に、さらなる困難が襲いかかる。育ての親である関さんが、謎の手紙を残し何者かに拉致されてしまうのだ。

手紙の暗号を解かなければ関さんを救出することができない。翔太はエリや様々な人の手を借り暗号解読に挑むのだった。

スポンサーリンク

感想

まずは『マリオネット症候群』の感想から。

この作品では人格転移というSFの要素が出てきます。よくある人格が入れ替わるタイプではないです。自分の中に一方的に他人の人格が入って来て、体を支配されます。

僕はこんな人格転移を初めてみました。おそらく類例はないんじゃないかな。

よくこんなコミカルで、ある意味不気味な話を思いついたものだと感嘆しました。この奇抜な設定を利用して、ミステリとしての意外性が生まれていました。

とても独特な作品でミステリとしても類例はないでしょうね。

続いて『クラリネット症候群』。

こちらは多感な男子高校生を主人公に据えています。好感が持てる人物造形だったので、終始気持ち良く読めました。

ドレミファソラシドの音が聴こえないということで、文章の会話文ではその文字が書かれていません。例えば〝見た〟という時は〝 た〟となり、〝あらそう〟という場合は〝あ  う〟という風に空白で表記されています。そのため少々読みづらいです。

確か筒井康隆の小説でこの趣向が使われていた気がしますが、ミステリでは初めてでしょう。

暗号がしっかりと作られており、暗号ミステリとしてちゃんと成立しています。

この作品はキャラクター造形と配置がうまいと思いました。必要なところに必要な人物が配置されています。特定の音を失ったことによる齟齬には、クスリとさせられました。

読んでいて非常に楽しい作品。

謎の自分語り

青春ものの小説を読んでいると、自分の青春時代について思いを馳せることがあります。もう何年も昔のこと。あの頃に比べるとすっかり年をとってしまったと感じる今日この頃。

僕が通っていた高校では男子は学ラン、女子はセーラー服でした。その頃はルーズソックスが大流行しており、女子はみんなルーズソックスにミニスカートという装いでした。

一学年に男女合わせて四百人ほどの共学高だったんですが、女子は本当にそんな恰好をした人たちばかりだった。普通のソックスをはいていたのは四、五人ぐらいだったように思う。

ちょうど浜崎あゆみが一大ムーブメントとなっていた時期でもあり、ギャルっぽい恰好をした人も多くいましたね。

男子も女子も髪を染めたりパーマをかけたりしていたけれど、それでも周りから浮くことはなかった。似たような格好をした人が多くいたからです。

そうは言っても、別に荒れ果てたヤンキー高だったわけじゃありません。普通の進学校でした。ファッションについては、わりと自由な校風だったとういうべきでしょうか。まあ、中にはヤンキーとかもいましたけどね。

そんな学校に通っていたので、気軽な高校生活を送っていました。はたして、それがよかったのかと疑問に思うことがないではない。自分自身に対して甘すぎたような気がします。

自由すぎるよりも、ある程度規律があった方が楽しみをいろいろ発見できる気がしますね。

あとがき

どちらの作品も面白く読むことができました。僕はこの手の特殊設定の話が好きなので、大満足だった。手軽に読める長さでこのクオリティーなら文句はないですね。

両方とも唯一無二の作品。それを一度に楽しめるのがありがたい。おすすめです。


 

コメント

タイトルとURLをコピーしました