『女王はかえらない』降田天 ネタバレあり

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感想 ★★★☆☆

第十三回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。 小学校での権力争いの末に重大な事件が起きる話。本の帯にどんでん返しとか驚愕の仕掛けと書いてあるので、どういうトリックが使われているのかだいたいわかってしまい、あまり驚きは得られなかったです。

お話としては、とても面白く感じる部分がありました。でも、この手のトリックとして何か新しさがあったかというと、そんなこともないと思う。

↓小学生が主人公のイヤミスならこんなのもあります。

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あらすじと内容

四年一組にはマキという女王が君臨しており、女子児童は皆すべからく彼女のご機嫌取りをしていた。だがしかし、東京から美しい転校生エリカがやってきたことにより状況が一変。エリカは徐々に派閥を増やしていき、マキとエリカの二大勢力がいがみ合いを繰り広げる殺伐とした日常となる。

そんな状況から距離をおいてクラスのはみ出し者になっていた主人公は、争いを止めようとする優しいメグのことをいつも気にかけていた。些細な出来事で形勢が変化するこの日常が、いつまで続くのかと思われていたある日、ついに決定的な事件が起きる。

本作は第一部 子どもたち、第二部 教師、第三部 真相、の三部構成になっていて、第一部で子供たちの権力争いが描かれます。

その様子はなかなか残酷で陰湿で読み応えがありました。僕はこういう桐野夏生ばりの女のどろどろした感じが苦手なので、途中からうんざりしてしまいました。

換言すれば、それだけよく書けているということなので、そういうイヤミス的な小説が好きな人にはおすすめします。

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ミステリとして

この第一部の最後で事件が起きて、第三部で真相が明かされるのですが、説得力に欠ける感は否めないです。小学四年生がこんなことを経験して平気でいられるのか、隠し通せるのか、そもそもそんなことができるのか、はだはだ疑問です。

せめて小学6年生くらいにしといた方が良かったんじゃないでしょうか。

とはいえ、ミステリにおいては荒唐無稽というほどではなく、他にぶっとんだものがいくらでもあるので、これはこれで構わないと思う。

要はそういうのが気にならないほど驚けるか、面白いかにかかっています。残念ながら僕はそこまでには至らなかった。

宣伝文句に、伏線の張り巡らされたミステリーとありますが、そんなことはないと思った。伏線とは、何か違和感がある描写だったり、真相に気づくための手掛かりのはず。

このトリックの場合、第一部にそれが必要なのに、該当するところはなかったように思う(それとも僕が見落としているだけでしょうか)。

このトリックはバレてしまうと一気に興醒めするので、上手く伏線を入れるのが非常に難しいのはよくわかります。でも、それがないとやはりミステリとして優れているとは言えないでしょう。

ここから先は完全なネタバレになります

思いっきりネタバレしているので、文字を反転してます。

本作では性別誤認の叙述トリックが使われていますが、これはもう使い古されて新鮮味がないし、何の理由もなく女性が自分のことを〝ぼく〟と呼ぶのはどうでしょう。例えば、自分のことを男と思いこんでいるとか、性同一性障害なら納得もできます。

しかしながら本作にそんな理由はなく、したがってただ騙すために使っているにすぎない。一人称をぼくや俺として性別誤認されるのは、定番過ぎて新規性を感じません。

そして、第一部の登場人物を全員カタカナにしているのもわざとらしい。真相で明かされる渾名のつけ方もなんだそれ、と思ってしまった。伏線のことと合わせて考えると、ミステリとしての技巧が凝らされた作品とは言い難いですね。

 あとがき

本作はイヤミスが好きな人におすすめ。それぞれのキャラクターは立っているし、ほんの些細な点を攻撃対象にするところなど、よく描けています。これらは著者の洞察力のなせる業でしょうね。

だから第一部は読み応えがあって面白いです。著者が一番書きたかったのは、おそらく第一部じゃないでしょうか。こだわりが伝わってきます。

残念なことに第二部、第三部になるに従い、質が落ちていきます。ミステリの場合、本来後半になるにつれ盛り上がっていくものなのに、本作は逆。ミステリとして考えると、先に述べたような理由から賞賛し辛いです。

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