
感想 ★★★☆☆
学生アリスシリーズは人気の青春ミステリーシリーズ。大学生が主人公で、彼らが行く先々で事件に遭遇します。クローズドサークル好きは必見のシリーズ。本作はその第四弾となります。
前作『双頭の悪魔』ではマリアが木更村から帰ってこないところから物語が始まりました。本作『女王国の城』も物語の導入の仕方は同じ。
行方不明になったメンバーを探すために、推理作家研究会の面々がある場所を訪れる、というやり方です。
あらすじ
今回いなくなるのはマリアではなく部長の江神。新興宗教〈人類協会〉の本拠地があることで有名な村、神倉。そこへ行ったまま江神部長が帰ってこなくなる。心配になったアリス他いつものメンバー四人は、レンタカーを飛ばして彼の地へ向かう。
人類協会の本部施設で江神部長の安否を確認し一安心した彼らだったが、そこで殺人事件に巻き込まれてしまう。とある事情から人類協会は警察への通報を拒否し、アリスたち一行を本部に軟禁する。このシリーズの定番となったクローズドサークルの完成。
警察へ通報できない状態で第二、第三の事件が立て続けに起き、本部からの脱出を試みるも上手くいかない。幹部連中は犯人をつきとめたら警察へ通報するという。江神部長率いる推理研の面々は、事件解決へ向け調査を開始する。
感想
前作から十五年の時を経て上梓された本作。それだけ間が空いたのを詫びるかのように、重量感のある作品に仕上がっています。人類協会で起こる連続殺人、同施設がある村で起きた過去の未解決事件、少女の失踪と盛りだくさん!
率直な感想としては、ページ数も多かったけれど、それ以上に長く感じた。人類協会はUFOを崇拝しているのですが、それに関する蘊蓄が多かったのがその一因でしょう。
京極夏彦かと思うぐらいの量でした。その他にも、この場面は必要なのかと思うシーンが無きにしも非ず。
物語の最後の最後で、人類協会が警察に通報するのをためらっていた理由が明らかになります。この理由には納得いった。僕にとってはまったく予想外の理由でした。本来なら真っ先にこの可能性を考えてもいいはずなのに!
自分の推理力のなさを思い知らされましたね。
それには驚かされましたが、肝心の犯人を指摘する場面でのカタルシスが得られなかった。読み進めるのに時間を要するせいか、その頃にはもう犯人を推理する気になれず、さっさと犯人を教えてくれという心境でした。
犯人の名前を聞いても、「え、この人誰だっけ?」という感じだった。登場人物が多いのもあるし、この人物は存在感が薄いので、印象に残っていないのです。この人物が犯人ですと言われても、今一つピンとこない。
※以下ネタバレありなので未読の方は注意。
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ネタバレ1 動機の疑問
犯人の動機についても茶々をいれたくなる。人類協会に復讐するのが目的だったらしいけど、それならなぜ教祖を狙わないのか。復讐というのなら、教祖が誘拐されている時に幹部を殺すのではなく、教祖がいる時に教祖を殺した方が復讐になるのではないか。とこう思うのです。
この事件では、というかこの作品では、凶器の銃が大切な意味を持つのですが、犯人が凶器に銃を選んだ理由が弱い。銃があるのを知っていたから使いたかった、というのは弱すぎると思う。
その銃を入手するために、あれほどの危険をおかすのは納得できない。しかも、十年前の使用できるかどうか不明な銃となれば尚更だ。
ネタバレ2 時間の問題
洞窟に銃を取りに行った際に、犯人と少女が鉢合わせしなかったのは何故なのか。
犯人は犯行に四分、洞窟の出口から銃の場所まで行くのに六分、出口に帰ってくるのに六分ということになっている。その間に少女も入口から出口に向かって進んでいるのだから、途中で鉢合わせになるのではないか、と感じた。
犯行時刻が五時、少女が洞窟に入ったのも五時とするなら、犯人が銃の場所まで行く間に、少女は出口に向かって十分進んだ場所にいる。鉢合わせする可能性が高いように感じます。
まあ、実際に鉢合わせしていないのだから、ギリギリのタイミングで入手したんでしょうが、少し引っかかりました。
学生アリスシリーズについて
過去作品と比べるとそれほどいい出来とは思わないです。このシリーズのファンなら楽しめること請け合いですが、そうでない人にとっては普通の作品かな。
本シリーズは著者の有栖川有栖と同姓同名のキャラクターが主人公になっています。そのキャラクターの一人称で物語は語られ、おまけに恋愛要素も入ってくるため、苦手と感じる方もいるかもしれない。
エラリークイーンのやり方を踏襲したのでしょうが、彼らは二人組であって一人ではない。よってエラリークイーンとは感じ方が違う。一人の著者が自分と同姓同名のキャラクターを使っていると、著者の存在がちらつき易いと思います。
そのことが気にならなければ、本シリーズは面白いです。ミステリとしての出来は確かだし、青春っぽさも感じられます。
ちなみに有栖川有栖は別のシリーズでも同姓同名キャラクターを使っています。何故それほどまでに自分を登場させたがるのかは不明。



コメント
あれ? 洞窟の出口から銃の場所まで行くのに六分なんて書いてあったかな? 犯人は銃の場所を覚えていた程度で場所の確定まではできなかったと思うけど。
あと同姓同名キャラを使っているのはあるちょっとした仕掛けを印象付けるためだと思われる。
通りすがりさんへ
コメントありがとうございます。
細かい部分を忘れてしまっているので今度読み返してみますね。
もう、全くの同意見。
賞もとってるし、期待したが、シリーズ順番に全部読んでる私でも拍子抜け。期待値が高いのもあるが。
まずは冗長的。城の中の者のキャラクターがうす過ぎる。犯人が判明しても「はぁ、そうですか」って感じでしたね。意外性がなく、誰だっけ?って思いました。
トリックもまぁ、いいんですがちょっとリアリティーにかけるし、犯人にもっと必死さが欲しかったですよね。
>>館シリーズファンさん
コメントありがとうございます。やはり同じ気持ちの人がいたのですね。
ロジックもさることながら、犯人に魅力があるかどうかも大切な要素だと
僕も思います。