『過ぎ行く風はみどり色』倉知淳 あらすじと感想

緑の草

感想 ★★★★★

猫丸先輩が活躍するシリーズの長編作品。ちなみに本作以外の猫丸シリーズはすべて短編(現時点では)。ゆえに貴重な作品と言えます。猫丸というキャラクターで長編を描くのは難しいということでしょうか。

そもそも倉知淳は寡作として有名な作家。デビューして19年になるのに刊行しているのは12冊と極端に少ない。

そんなことで生活していけるのかと、つい余計な心配をしてしまいます。もっと書いてほしいと思うのですが、なかなか新刊が出ない。非常に残念。

もっとやる気を出してくれと、切に願っているミステリファンは少なくないと思われます。

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あらすじ

不動産業で財をなした資産家の方城兵馬は、亡き妻に謝罪したいと願っていた。そんな彼の元へ訪れたのは、謎の霊媒師。兵馬は次第にその霊媒師にのめり込んで行く。そんな兵馬の目を冷まそうと、超常現象研究家の二人も兵馬の元へやって来る。

こうして平穏だった方城家に、霊媒師や超常現象研究家といった胡乱な人物たちが、たびたび出入りするようになる。

そんなある日事件は起きる。密室状態になった離れの部屋で、兵馬が撲殺されてしまうのだ。

霊媒師は霊の仕業だとのたまい、降霊会の実施を提案。混乱と悲しみに打ちひしがれる方城家は、胡散臭く思いながらも降霊会を行うことを承諾する。

そして、行われた降霊会でまたも悲劇が起きてしまう。はたして、猫丸先輩は事件の謎を解き、度重なる不幸の連鎖を解くことができるのか。

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感想

探偵役として活躍する猫丸先輩がどういう人物かというと、これがなかなか個性的で良い味を出しています。

アラサーになっても定職に就いておらず、どうやって生計を立てているかは不明。見た目は小柄で猫みたいな円らな目をしています。いつも飄々としており、人を食ったような性格というキャラクター。

本格ミステリの探偵といえば奇抜なキャラクターが多い。猫丸先輩も個性的ではあるけれど、変人クラスの探偵が跳梁跋扈する斯界においては、まだまともなほうだと言えます。

さて、物語の内容ですが、内容だけ見るといくらでもドロドロした陰惨な物語にできそうです。しかし、そうはなりません。

連続殺人の話でありながら、作中には常にほのぼのとした清涼感が漂っています。これは日常の謎を得意とする倉知淳の特徴といえるでしょう。

猫丸先輩ばかりでなく、方城家の面々も個性豊かなので終始楽しく読むことができます。物語の語り手である方城成一はいじられキャラ。

事故によりハンデを負った美少女の従妹に、健康的で活発な妹。細かい事には頓着しない両親と、魅力的な一家です。猫丸先輩は成一の大学時代の先輩という位置づけ。

トリックに関しては、一捻りあるものと単純なものとがありました。驚嘆したり、呆気なく思ったりと忙しい。総体的にみるとクオリティは高いです。

犯人に関しては、あの人が犯人だと後味が悪いなと、思っていました。でも、そうはならず安心しました。

倉知作品らしい気持ちの良い読後感です。変なもやもやが残らない幕の下ろし方には好感が持てます。

あとがき

内容もさることながら、読後感の良さが印象的。読み終わった後、とても爽やかな気分になります。まさにみどり色の風と言った感じ。 

非常に好感度が高いです。読んで良かったと思える素敵な作品でした。

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