
感想 ★★★★☆
学園ミステリをテーマに5人の若手作家が書き下ろしたアンソロジー。『スプリング・ハズ・カム』を除いてどれも若者向けに書かれたライトなミステリという感じでした。
基本的に人が死ぬような陰惨な話はないし、青春ストーリーを重視しているので、普段ミステリを読まない人にもおすすめです。
年頃の若者たちのうぶな恋愛模様が描かれているのも特徴で、特に10代の人には最適。トリックはどれも小粒だけれど、暖かい気持ちにさせてくれる良作がそろっています。
あらすじ
『お届け先には不思議を添えて』似鳥鶏
『理由あって冬に出る』シリーズの一編。ビデオテープを詰め込んだダンボールを、ある人物のもとへ郵送したら、いつの間にか中身がすり替わっていた。そんな機会はなかったはずなのにいったいなぜ? という話。
『ボールがない』 鵜林伸也
野球部が練習後ボールを数えてみると1球たりない。鬼監督にボールが見つかるまで帰るなと怒鳴られた部員とマネージャーは、言い争いしながらグラウンドを探すがどこにもない。これは何か予想外のことが起きたはずだと、彼らはあれこれ推理してボールの行方を捜す。
『恋のおまじないのチンク・ア・チンク』 相沢沙呼
『午前零時のサンドリヨン』シリーズの一編。バレンタインに浮足立っている生徒たち。 様々な恋の駆け引きが繰り広げられる中、多くの人のチョコが盗まれ1カ所に集められる悪戯が起きる。はたして犯人は何のためにそんなことをしたのか。
『横槍ワイン』 市井豊
映画サークルのメンバーが完成披露試写を兼ねた飲み会をしていると、メンバーの一人が突然顔からワインを浴びせられる。真っ暗だったので誰がやったかは不明。犯人はどうしていきなりそんなことをしたのか。
『スプリング・ハズ・カム』 梓崎優
15年ぶりに同窓会に参加した主人公。昔話に花を咲かせているうちに、彼らは高校の卒業式で起きた事件のことを思い出す。何者かが放送室を乗っ取って『仰げば尊し』の代わりにロックを流したのだ。 皆の良い思い出になったその実行犯が、15年ぶりに明らかになる。
感想
『お届け先には不思議を添えて』は、一番ミステリらしいトリックが使われています。でも一番つまらなく感じました。
『恋のおまじないはチンク・ア・チンク』は文体が軽すぎて読むのが少しつらかった。語り手が女子高生ならば、このくらい軽くても理解できるけれど、男でこれだとちょっと受け入れがたい。
真相に関しては、ほのぼのさせられて好印象でした。少女マンガチックな作品なので好みが別れそうです。
『ボールがない』は野球部のノリが伝わって来るし、オチに爽やかさがあって面白い作品でした。他の作品も読んでみたいと思わせるのに、未だに本が出ていないようで残念。
『横槍ワイン』は好みの作品でした。軽すぎない軽妙な文体が読みやすく、こういう雰囲気の作品によく合っていた。
このトリックというか間違いはミステリではよく見かけますが、本作のそれもなかなか面白かった。 何気ない青春っぽさが光る良作。
そして作品としてのクオリティが一番高いのは『スプリング・ハズ・カム』。本書の中で一番好きだったのもこの作品。深みや情感があります。
この作品については、若者よりも大人の方が感じるところが多いと思う。ストーリーは優れているし、梓崎優らしい驚きも用意されていて余韻に浸れます。
この作品目当てで買っても後悔することはないです。
あとがき
本書は期待の新人に興味を持ってもらうことを意図して編まれたようです。狙い通りの見事に効果を発揮していると思います。
それぞれの作者のカラーがよく出ているので、好みの人がいれば違う作品にまで波及していくでしょう。 アンソロジーとしてよく出来ています。
青春ミステリ好きに人や若い人におすすめですね。


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