感想 ★★★☆☆
五篇を収録したミステリ短編集。ミステリの中には日常の謎と呼ばれるジャンルがあって、北村薫はその代表的な存在。
本書は女子大生の「私」が体験する謎めいた出来事を、落語家の円紫さんが解明していくというスタイル。
どの短編でも殺人などの凶悪な事件は起こらず、日常のちょっとした謎をテーマとしています。
重大な事件を取り扱わずとも、ミステリとして成立することを知らしめた、このジャンルを代表的する作品。
感想
それぞれの作品に共通するのは、序盤で主人公の日常が描かれること。そこで小説や落語についての蘊蓄などが披露され、事件が始まるまでは遅いです。
僕は序盤の日常描写の部分でいまひとつ作品に入りこむことができなかったので、物語が動き出す中盤以降までは退屈に感じる時もありました。
主人公の「私」は好感の持てるキャラクターだけれど、現実的ではないので読んでいて違和感を覚えてしまう部分もありました。
清廉潔白な文学少女で落語好きという人は、もしかしたらいるかもしれませんが、母親のことを母上と呼ぶ人はいくらなんでもいないと思う。
別にそれがダメというわけじゃなくて、個人的な好みの問題で入り込めなかったというだけです。いい人しか出てこず、ある意味でファンタジーに感じるところもあります。
どの作品も驚きは感じられなかったですが、日常の謎としてはなるほどと思わせくれます。特に『砂糖合戦』はとても有名な作品で、このジャンルの代表と評価されていますので、一読の価値あり。
表題作の『空飛ぶ馬』は、人間っていいなと思えるような暖かさがあって好きなタイプの作品でした。
あとがき
ほのぼのとした青春小説の色合いが強いので、重たい作品を読んで疲れた時などにいいかもしれません。
謎に関連してちょっとした悪意も出てきますが、全体を通してとても優しい世界観です。こういう作品が必要とされるのは分かります。



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