ハルチカシリーズ第四弾『千年ジュリエット』初野晴

感想 ★★★☆☆

ハルタこと上条春太と、チカこと穂村千夏が活躍するハルチカシリーズは、高校の吹奏楽部を舞台にした人気の青春ミステリ。

その第四作目となる本書には、文化祭で巻き起こる四つの話が収められています。趣の異なる話が揃えられており、良い短編集に仕上がっています。

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あらすじ

『エデンの谷』

ムーミンに出てくるスナフキンのような恰好をした謎の女が、吹奏楽部にやってくる。実はその人物、顧問の草壁先生の古い知り合いで、有名な音楽家の孫娘。祖父の残した高価なピアノについて相談するために、草壁先生のところへやってきたのだった。そのついでに吹奏楽部の面々と接するうちに意外な事実が明らかになる。

『失踪ヘビーロッカー』

文化祭でハードロックを披露することになった生徒が、タクシーに乗ったままなかなか学校にやって来ない。それを知ったハルタとチカは、なぜ彼がそんな状況になっているのかを推理する。彼にはタクシーから降りたくても降りられない事情があった。

『決闘戯曲』

文化祭でオリジナル劇をやる予定の演劇部はピンチに陥っていた。文化祭当日にもかかわらず、脚本担当の部員と連絡が取れなくなり、結末が謎のままだったのだ。演劇部にハルタとチカを加え、途中まで出来あがっている劇の練習をしながら、どういう結末なのかを模索する。

『千年ジュリエット』

病院で入院生活を送っている女性たちが、ジュリエットの秘書をまねて、恋愛相談に応じるサイトを立ち上げた。次第に相談メールが来るようになり、それに応えることが不治の病と闘う彼女たちの生きがいとなる。 そのサイトと関わっていた人物が、とある理由からハルチカたちの学園祭にやってくる。

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青春小説らしさ満載

ハルチカシリーズもこれで四冊目となりました。順調に刊行しているところをみると、やはり人気があるようですね。その理由の一つが魅力的な登場人物たちでしょう。本作ではその魅力がより発揮されています。

というのも、今回は文化祭が物語の舞台なのです。文化祭といえば青春感が満載ですよね。クラスの催し物を何にするか話し合ったり、その準備でわいわい騒いだり、ザ・青春という感じ。つい自分の若い頃を思い出しちゃいました。

さて、今回は過去作品に登場した生徒会長や、ブラックリストの面々がチョイ役で出てきます。そういえばこんなキャラもいたなあと、懐かしい気持ちになります。

『エデンの谷』は吹奏楽部がフューチャーされていて、音楽小説らしさがありました。それ以外の話では吹奏楽部の面々はほとんど出てこず、チカ以外の語り手もいるので、ハルタとチカの印象は薄めでした。

『失踪ヘビーロッカー』は引き籠もり問題をからめているのが上手いと思いました。ある理由があって生徒はタクシー内で意味不明な行動を取るのですが、それを運転手に言わないのがどう考えても不自然。しかし、引きこもりのエピソードを出すことによって、上手くはぐらかしていました。

ライトな語り口と相反する悲しい話があるのも、ハルチカシリーズの魅力。本書の中でそれにあたるのは『千年ジュリエット』でしょうか。内容、題材共に良かったです。著者の初野晴はこういう話を作るのが本当に上手ですね。

謎とトリックについて

一番ミステリらしいトリックが使われているのは『千年ジュリエット』。けれど、この仕掛けにはもう食傷気味になっているところがありまして、驚愕することはなかったです。ある手法を組み合わせているので、工夫はされていると思います。

僕が一番好きだったのは『決闘戯曲』。この作品は演劇部の様子と劇の内容が交互に語られます。作中作の形で示される劇の物語が魅力的でした。

劇には二つの話が合って、一つが西部開拓時代のアメリカの話。もう一つが第一次世界大戦時のパリで行われた決闘の話。どちらの話にも右目が見えず左手が使えない男が登場します。

決闘の方法は、お互い背中を合わせた状態から5歩進み、振り返って銃で撃ち合うというもの。西部劇の映画なんかよく見るあれです。

この方法だと、ハンデのある彼は圧倒的に不利なはずなのに勝利を収めます。さて、それはいったいなぜかというのが本作の謎。

このトリックはとても面白かった。トンチや頭の体操みたいなところがあって、真相を知った時は思わず膝を打ってしまいました。その手の問題に騙された時の爽快感があります。かなり柔軟な頭を持っていないと、この謎は解けないでしょう。

あとがき

といった感じで、青春小説としてもミステリとしても楽しめる1冊になっています。読んで損はないですね。既存キャラが多く登場するので、過去作を読んでからの方がより楽しめるのは間違いないです。おすすめです。

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