物理波矢多シリーズ三作目『赫衣の闇』三津田信三 

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感想 ★★★☆☆
シリーズ三作目となる本作は戦後の闇市が舞台。そこで起きる怪異と殺人事件に物理波矢多が関わります。今回はミステリーよりの作品でした。
ミステリーとして凄いトリックとかはないのですが、当時の習俗を描いた読み物として楽しめました。
闇市、売春、戦災孤児などの問題に興味がある人は読んで損ないと思います。
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あらすじ

自分探しの旅をしていた波矢多は、大学時代の同期の伝手で東京の闇市にやって来る。そこは通称〝赤迷路〟と呼ばれており、違法な店などでごった返す魔宮のような場所だった。
〝赫衣〟という謎の怪人が出没しており、若い女性が何人も被害に遭っていた。波矢多はその事件の解決を依頼され、調査に乗り出すのだが、その最中に凄惨な密室殺人事件に遭遇する。
はたして波矢多は密室の謎を解けるのか。そしてこの地に蔓延る赫衣の正体とは――。
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感想

前二作では波矢多は特定の職業に就いていましたが、今作では素人探偵という役どころ。時系列としては『黒面の狐』と『白魔の塔』の間となります。
本書では戦後の荒廃した状況を描くのに、重きを置いている気がしました。特に戦後の闇市に関して丁寧に描かれています。
食べ物がなかったゆえ、市民にとって闇市は必要不可欠だったとか、元締めに大陸の人間が多く居た事情など、闇市が成り立つ経緯を詳しく知ることができます。
どんな食べ物が売られていたかまで書かれていて、興味深く読むことができました。その他にも売春婦や戦争孤児など、悲惨な状況に置かれた人々描かれています。
そして舞台となる赤迷路は、スラム街や九龍城みたいな雑多な魅力があって面白い。

ミステリとして

そういう背景説明にページが割かれているため、事件が始まるのは遅いです。事件は密室での殺人事件。それに付随して犯人消失事件が二つ起きます。
真相は何とも言えない悲劇的なものではありますが、トリック自体が凄いわけではなかったです。

ちゃんと矛盾なく解決して納得できるのですが、三津田作品なのでもっと凄いトリックを期待していた。なので少し拍子抜けしたところはあります。

そういう意味でも、やはりトリックより戦後の闇を描くのが目的だった気がします。
最初にミステリーよりと描きましたが、謎解きを期待して読む作品ではないかもしれませんね。

あとがき

同じ戦後が舞台でも、トリック重視なのが刀城言耶シリーズ、世相を描くのがメインの物理波矢多シリーズという感じ。
荒廃した雰囲気、何とかして生き延びようとする人々の話は読み応えがあります。戦後の習俗を描いた作品を探している方におすすめです。

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