『名探偵に甘美なる死を』方丈貴恵 SF本格ミステリの傑作

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感想 ★★★★★

SF本格ミステリの三冊目。今回も持ち味が遺憾なく発揮された力作となっています。面白かったというよりも感嘆したと言うべきでしょうか。

密室トリックを一作の中にここまで詰め込んだ作品は、そうそうないと思います。

SF設定を活かしているのはもちろんのこと、多重解決ミステリであり、倒叙ミステリでもあり、デスゲームでもあって――。

本当にこれでもかというくらい様々な仕掛けが施されています。本格ミステリ好きは読んで損なし。

ただその反面、覚えることが多いのもあり、若干読みづらさを感じる部分がありました。

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あらすじ

ライターの加茂冬馬は、世界的なゲームメーカーから新作VRゲームの監修を依頼される。それはミステリゲームで、加茂には犯人役を演じて欲しいとのこと。承諾した彼はトリックを考案し、試遊会に臨む。

会場は瀬戸内海に浮かぶ孤島。そこには素人探偵8人が集められていた。ただ新作ゲームで遊ぶだけかと思いきや、予想外の事態が彼らを襲う。

ゲーム内と現実で起きる事件の両方を解決しないと殺すというのだ。素人探偵たちは人質をとられており、従うより他なかった。

犯人役である加茂は、ゲーム内では完全犯罪を達成し、現実では犯人を当てなければならない。はたして加茂はこの危機的状況を乗り越えられるのか。

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トリックが凄い

本当に盛りだくさんの内容。VRゲーム内の事件は3つ、現実では2つ起きます。そのどれもが密室殺人で、いずれの事件もどういう方法かまったくわかりませんでした。

おそらくこれを当てられる人はいないでしょう。それほど奇想天外なトリック。中には、こんなの分かるかよ(笑)と、吹き出しそうになるのもありました。

本書の特徴の1つは、倒叙ミステリとして楽しめるところ。VRの事件では、語り手の加茂が犯人と読者は知っています。犯行方法は伏せられているので、ハウダニットですね。

素人探偵たちの追及を加茂はいかにして退けるのか。そのやり取りが見所の1つになっています。
その際に披露されるトリックは、捨てトリックとなりますが、これが真相でもいいのではと思うほどユニーク。捨てるには勿体ない気がするほどでした。

こういう展開があるため、多重解決ミステリとしての面白さもあります。真相のトリックも凄いし、捨てトリックも捨てがたい。

バカミス的に感じるものも含め、サービス精神豊富というか、本格ミステリとしては申し分ないと思います。

全体の感想

このようにトリックに関しては文句なしに楽しめました。ただ色んなものを詰め込んでいる分、覚える設定、条件が多いです。

そのため煩雑に感じる部分があるのは否めないですね。物語に入り込めない人もいるかもしれません。

最初は僕もなかなか入っていけませんでした。思えば過去二作も同じような感じでしたね。

それと、ここまで詰め込む必要があったのか、という気がしないでもない。もう少しスッキリさせてもよかったのではと、思ったりもします。

ストーリーについてもラストの部分とか長く感じてしまいましたね。これは個人の好みかもしれません。

登場キャラが良くも悪くも真面目というか、普通というか、真っ当な人間なので、そこでも好みが分かれるかもですね。

あとがき

本書はシリーズ三作目で、一作目『時空旅行者の砂時計』の主人公・加茂と、二作目『孤島の来訪者』の主人公・竜泉佑樹が登場します。

本作から読んでも問題ない作りになっているものの、〝マイスター・ホラ〟については何のことかさっぱりでしょうね。

ラストには、これからもシリーズが続いていくのを予感させる描写もあります。
SFの設定で斬新な本格ミステリを見せてくれるシリーズ。次はどんな驚きをもたらしてくれるか楽しみですね。

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