感想 ★★★★☆
このシリーズは本格ミステリとホラーの融合を目指しているので、そういう意味では丁度いい塩梅で二つが合わさり、見事に成功しています。内容が濃くて読み応えもあって、かなりの力作。
終盤のどんでん返しの連続も健在で、相変わらずのサービス精神ぶり。非常に満足度の高い作品でした。ただ、メイントリックに関して、少しだけ不満が残ります。
あらすじ
その儀式では、神男と呼ばれる儀式の執行者が行方不明になったり、心臓発作で亡くなったりと、曰く付きのもの。
現地へ訪れた刀城言耶はすぐにこの地の特殊性に気づく。その地は四つの村に別れており、それぞれに神社がある。中でも五月夜(さよ)村の水使(みずし)神社の立場が強く、この地を取り仕切っていた。
刀城言耶はその水使神社の厄介になり、儀式までの時間を過ごすうち、当主の龍璽(りゅうじ)が何か良からぬことを企んでいると察する。
そしてやってきた儀式の最中に、神男が何者かによって殺害され、その後も次々と凶行が繰り返されていくのだった。
これまでのシリーズとの変化
本格ミステリ小説といえば、探偵と助手のコンビが一般的。ホームズ&ワトソンは言わずもがな、多くの本格ミステリ小説で採用されています。
その方が掛け合いの面白さが出るからでしょうね。シリーズを重ねるごとにファンも付きやすいと思います。
本作においても、彼女がいることによって多様性が出ていました。恋愛要素、ホラー要素、漫才のような掛け合いによって、今までとは違った側面が物語に加味されています。
ただ、これらが必要かどうかは意見が別れるところだと思う。個人的にはありですが、恋愛要素については、わざとらしくて白けてしまう部分がありました。
不要とは言わないまでも、もっと自然にした方がいいのではと感じた。でも、これくらいわざとらしい方が、コミカルで面白いのかもしれません。この辺は好みの問題ですかね。
実際に事件が起きるのは半分近く経ってからなので、ミステリだけを期待する人は、退屈に感じるかもです。
そうはいっても、このシリーズは長さが魅力の一つともいえます。独特の雰囲気がある小説なので、その世界観にとっぷり浸かれます。
謎とトリックについて
以下、ネタバレあり
このトリックなんだけれど、実現性が低いというか、その場面を上手く想像できなかったです。
※以下はメイントリックに触れているため反転
あくまで僕の想像ですが、もしかすると著者はミステリとしての完成度をとるか、物語としての出来をとるかで悩んだかもしれません。
どちらを採用するかで後味は180度変わってしまう。大味な部分がところどころ出るにしても、僕はこの真相でよかったと思います。
ただ、こうするなら龍三と龍璽を殺すまでに留めて欲しかった。そうすればさらに読後感がよくなって、正子さんの幸せを何の屈託もなく願えたはず。
最後に
他のシリーズ作と比較すると、正直ミステリとしての面白さはそこまでじゃないと思う。しかし、世界観、設定の作り込みはかなりのもので、物語としての深みを感じました。
冒頭でも書いたように、民族学の不気味さと本格ミステリが融合したこの感じは大好物です。一昔前の田舎の怪しげな雰囲気を堪能したい方に、強くおすすめします。
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