刀城言耶シリーズ『水魑(みづち)の如き沈むもの』三津田信三 ネタバレ感想

mizuumi

感想 ★★★★☆

刀城言耶シリーズの第五長編作品。本作は第10回本格ミステリ大賞を受賞しています。今回はいつもよりホラー色が強め。超常現象を超常現象のままで終わらせていたりします。

このシリーズは本格ミステリとホラーの融合を目指しているので、そういう意味では丁度いい塩梅で二つが合わさり、見事に成功しています。内容が濃くて読み応えもあって、かなりの力作。

終盤のどんでん返しの連続も健在で、相変わらずのサービス精神ぶり。非常に満足度の高い作品でした。ただ、メイントリックに関して、少しだけ不満が残ります。

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あらすじ

刀城言耶は先輩の阿武隈川烏から、奈良の奥地で雨乞いの儀が行われると聞いて見学に行くことに。

その儀式では、神男と呼ばれる儀式の執行者が行方不明になったり、心臓発作で亡くなったりと、曰く付きのもの。

現地へ訪れた刀城言耶はすぐにこの地の特殊性に気づく。その地は四つの村に別れており、それぞれに神社がある。中でも五月夜(さよ)村の水使(みずし)神社の立場が強く、この地を取り仕切っていた。

刀城言耶はその水使神社の厄介になり、儀式までの時間を過ごすうち、当主の龍璽(りゅうじ)が何か良からぬことを企んでいると察する。

そしてやってきた儀式の最中に、神男が何者かによって殺害され、その後も次々と凶行が繰り返されていくのだった。

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これまでのシリーズとの変化

これまでは刀城言耶が一人で現地へ赴きますが、今回は担当編集者の祖父江偲が一緒。

本格ミステリ小説といえば、探偵と助手のコンビが一般的。ホームズ&ワトソンは言わずもがな、多くの本格ミステリ小説で採用されています。

その方が掛け合いの面白さが出るからでしょうね。シリーズを重ねるごとにファンも付きやすいと思います。

本作においても、彼女がいることによって多様性が出ていました。恋愛要素、ホラー要素、漫才のような掛け合いによって、今までとは違った側面が物語に加味されています。

ただ、これらが必要かどうかは意見が別れるところだと思う。個人的にはありですが、恋愛要素については、わざとらしくて白けてしまう部分がありました。

不要とは言わないまでも、もっと自然にした方がいいのではと感じた。でも、これくらいわざとらしい方が、コミカルで面白いのかもしれません。この辺は好みの問題ですかね。

内容については、ここまで長くする必要があったのか疑問に思う部分が、無きにしも非ず。正一のパートは冗長に感じました。

実際に事件が起きるのは半分近く経ってからなので、ミステリだけを期待する人は、退屈に感じるかもです。

そうはいっても、このシリーズは長さが魅力の一つともいえます。独特の雰囲気がある小説なので、その世界観にとっぷり浸かれます。

謎とトリックについて

以下、ネタバレあり

儀式の最中に起きる殺人は密室もの。衆人環視の湖の上で神男が殺され、犯人は忽然と姿を消しています。

このトリックなんだけれど、実現性が低いというか、その場面を上手く想像できなかったです。

※以下はメイントリックに触れているため反転

樽の中に入れられ水の中に沈んだ犯人は、偶然蓋が開いて樽の中に残った空気で生き延びた、ということだが、今一つイメージできない。樽の中に空気が残っていたら浮いてきそうなものだけど、犯人はそうならないように水中で押さえつつ空気を吸っていたのだろうか。はたして犯人はどんな体勢をとっていたのだろう。そもそも特殊訓練を受けていない女性に、この方法で殺人なんてできるのか疑問で仕方がない。ジェームズボンドばりのフィジカルがないと無理でしょう。
多重推理の中には、真相よりも納得できるものがありました。ただそうすると後味が最悪でした。

あくまで僕の想像ですが、もしかすると著者はミステリとしての完成度をとるか、物語としての出来をとるかで悩んだかもしれません。

どちらを採用するかで後味は180度変わってしまう。大味な部分がところどころ出るにしても、僕はこの真相でよかったと思います。

ただ、こうするなら龍三と龍璽を殺すまでに留めて欲しかった。そうすればさらに読後感がよくなって、正子さんの幸せを何の屈託もなく願えたはず。

最後に

他のシリーズ作と比較すると、正直ミステリとしての面白さはそこまでじゃないと思う。しかし、世界観、設定の作り込みはかなりのもので、物語としての深みを感じました。

冒頭でも書いたように、民族学の不気味さと本格ミステリが融合したこの感じは大好物です。一昔前の田舎の怪しげな雰囲気を堪能したい方に、強くおすすめします。

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