
感想 ★☆☆☆☆
直木賞など数々の文学賞を受賞している人気作家・恩田陸のデビュー作。豊富な作品の中でも、『六番目の小夜子』はドラマ化されたりして知名度の高さはトップクラス。
初めて読んだのは随分前で(十年以上前なのは間違いない)、すっかり内容を忘れていました。
覚えてないくらだから読んだ当時は気にならなかったみたいですが、今こうして読み返してみると、けっこう滅茶苦茶な話でした。
正直言って面白くなかった。面白くないというより、納得いかない部分が多かったです。
こんな風に感じたのは、おそらく年齢を重ねて多くの本を読んだ結果でしょうね。読む年齢によって感じ方が変わるのも、読書の醍醐味の一つだと思います。
あらすじ
花宮雅子が通う高校には奇妙な風習があった。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が現れるのだ。サヨコ役に選ばれた生徒は、自分がサヨコだと誰にも気付かれては
ならない。そしてあることをしなければならない。
雅子の学年がそのサヨコが現れる年だった。そんな年に転校生がやってくる。頭脳明晰で陰のある美少女。おまけに名前が津村〝沙世子〟。
いったい誰がサヨコになのか。微かな不安を抱えつつ、雅子たちの高校最後の一年が始まる。
感想
ホラー、ミステリ、恋愛など、いろんな要素が詰まった青春群像劇。視点人物は
固定ではなく、いろんなキャラを移動しながら展開していきます。いわゆる神の視点というやつで、様々なキャラの内面を知ることが出来ます。
風呂敷を畳めていない、投げっぱなしというのが率直な感想です。話の筋やキャラ設定も、ぶれぶれな印象。ミステリなのか、ホラーなのか、青春恋愛なのか、判然としません。
いろんな要素があっていいんですが、本書に関しては効果的にまとまっていないように感じました。
その主な理由は、重要な出来事があやふやになっているからだと思います。ミステリのように見えてそうじゃなかったり、ホラーかと思えばそれともちょっと違ったりして、何がテーマなのかわからなくなります。
導入から序盤は面白くて、これからどうなるのだろうとワクワクさせられるだけに、この話はいったい何だったんだと思ってしまう。
そして、一番僕が納得いかなかったのは津村沙世子というキャラについて。正直この性格(設定というべきか)はダメだと思う。
以下ネタバレを含めて問題点を書いていきます。未読の方はご注意下さい。
ネタバレ
最初はとても面白かったです。サヨコ役が誰なのかという謎があって、そこへサヨコの名を持つ津村沙世子がやってくる。そして沙世子には何か目的があるらしいのが窺えて、この先の展開を期待しました。
けれどサヨコ役はすぐに判明するし、沙世子は特に目的があったわけではありません。これでミステリの興味は削がれます。
いろんな超常現象が起きて、じゃあこれはホラーなんだなと認識を改めます。
犬を使って不良を大怪我させたり、竜巻が起きたりと、沙世子はそういう現象を起こせる存在なんだと。さながら『キャリー』や『オーメン』のように。
ホラー描写には不気味さがあったし、この現象にはサヨコ伝説も関わってくるんだろうと、ワクワクさせられます。
しかし、これも何がなんだかわからないまま終わります。
津村沙世子について
そして一番良くないのが津村沙世子というキャラ。沙世子は加藤と佐野という同級生二人を、言葉巧みに操ります。そしてその結果とんでもない目に遭わせている。
加藤は体を壊し入院を余儀なくされ、佐野は放火犯になっている。
沙世子が悪女だったら別に構わないのです。破滅させるためにやって来た悪役とか、超常現象を起こせる不気味な存在なら、何の問題もありません。
しかし物語が進むにつれ、沙世子は普通の女の子という描写になります。普通の女の子が同級生に洗脳まがいのことをするのは、おかしいでしょう。しかも、それをした明確な理由がない。
サイコパスでも二重人格でもないので、キャラ設定がぶれているとしか思いません。
〝見た目や頭の良さで先入観を持たれるのが辛い〟といった描写があります。なので、自分にそんなつもりはないのに相手が変に受け取ってしまう、それで苦しんでいる、というならわかります。
けれど沙世子の場合はそうではありません。佐野に放火をけしかけたことを、ちゃんと認識しています。
そういうキャラにもかかわらず、ラストシーンでは映画のヒロインのようになっています。必死に主人公を助ける健気の女の子、みたいに描かれているのです。
僕は読んでいて唖然としました。違和感しかなかったです。これでハッピーエンドと言われても、納得できるわけがありません。
あとがき
以上のように納得いかない点が多くありました。世間の評価が高いのは、青春部分が評価されているのでしょうか。
でも普通にタバコを吸ったり酒を飲んだりするので、今の十代の人はピンとこないかもしれませんね。
発行された三十年前は普通だったかもしれませんが、今の人たちはどう思うのでしょう。興味を持たれた方は手に取って見て下さい。


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