
感想 ★★☆☆☆
個性豊かな古典部の面々が活躍する通称〝古典部シリーズ〟の第三弾。
主人公、折木奉太郎の視点のみで語られてきたこれまでと違い、本作では他のメンバーの視点もある多視点形式となっています。
従って、それぞれの内面がよくわかり、今まで読んできたファンにとっては嬉しい一冊となっています。
あらすじ
折木たちの通う高校の一大イベント、カンヤ祭がいよいよ幕を開け浮足立つ生徒たち。だが、古典部は厄介な問題を抱えており、素直に楽しめない。
期間中に販売する文集『氷菓』を、手違いで作り過ぎてしまったのだ。しかも通常ではまず売り切るのが不可能な膨大な数。
そこで彼らはいろいろな策を練って完売目指して奔走する。
そんな中、校内ではある事件が起きていた。様々な部で盗難があり、犯行声明が残されていたのである。
この事件を解決すれば部の宣伝になって、文集も売れるのではないかと考えた古典部の面々は、面倒がる折木をたきつけ、この不可解な事件の謎に挑む。
感想
本作は多感な青春時代の悩みが描かれた群像劇という感じでした。
連続盗難事件を中心に据えながら、その周りで人間関係の悩み、才能への嫉妬、挫折などが描かれていて、青春ものとして楽しめました。
とはいえ、それらは定番というか、スポーツ漫画などではよく見かけるタイプのもの。別段珍しいわけではないし、深いとも思わなかったです。
ミステリとしてみるなら事件が始まるまでが遅い。興味を惹かれるような謎が提示をされるのは、中盤近くまで進んでからです。
それまでは文化祭の様子が描かれますが、ファンでなければ退屈に感じるかもしれません。
ミステリについて 以下ネタバレあり
連続盗難事件はアガサ・クリスティの『ABC殺人事件』を本歌取りしたもの。犯人の動機には今一つ納得できませんでした。
ある人物にあることを伝えるのがその動機だが、そのためにわざわざこんな回りくどいことをするのは共感しかねるし、呆気なく感じました。
400ページ近くある話の動機がこれだと、どうしてもそう感じてしまいます。
本人に言えなかった理由、回りくどいことをした理由を語っていますが、納得しかねます。
それだけの思いを抱えているのなら、尚更直接言いたくなるんじゃないでしょうか。
それとも、直接ぶつからなきゃダメだというのを伝えるために、わざとこうしたのでしょうか。それなら理解できます。
もう一つ納得できない点は、事件のキーアイテムである『夕べには骸に』という漫画を折木が手にしたのが、都合良すぎること。
姉が折木に渡すのだが、なぜ姉が持っていたのか不明だし、なぜその漫画を渡そうと思ったのかも不明。偶然だとすれば、あまりにも偶然過ぎるでしょう。


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