『medium 霊媒探偵城塚翡翠 』相沢沙呼 ネタバレあり 五冠達成小説のあらすじと感想

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感想 ★★★★☆
ミステリ賞五冠を達成したことで話題となった作品。終盤までなぜこれほど評価されたのか疑問でした。でも読み終えて納得。なるほど、確かにこれはミステリ小説として評価されますね。
ミステリ好きだけに好評なのかと思ったら、世間的な評判もいいようで、そこはちょっと意外でした。個人的には万人受けするタイプではない気がします。
※あとがきの後にネタバレがあります。未読の方は注意して下さい。
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あらすじ

推理作家の香月史郎は、警察の相談役として秘密裏に事件に協力していた。そんな彼はある日、心霊現象に悩む後輩の付き添いで、著名な霊媒師の元を訪れる。
城塚翡翠なるその人物は、少女のようなあどけなさの残る美女。香月は胡散臭さを感じていたものの、彼女の能力を目の当たりにして本物と確信。
翡翠は殺された被害者を我が身に降ろすことができ、その時点で犯人が判明することもある。とはいえ、霊媒では証拠能力がない。
そこで香月が答えから逆算するように論理を組み立てる。こんな具合で二人は数々の事件を解決へと導くのだった。
その能力を見込まれ、警察からある事件の捜査協力を求められる。その事件とは、世間を騒がせている連続殺人事件で、犯人は証拠を一切残さない周到ぶり。

警察の捜査では犯人へ辿り着けない。可能性があるとすれば翡翠の超自然的な能力のみ。はたして二人は霊媒の力で犯人の糸口を掴めるのか。

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感想

本書は四話からなる連作短編集です。第三話までは普通のミステリといった感じ。答えから論理を組み立てる試みはユニークだし、ロジックにも納得感があります。
だからしっかりした短編ミステリとは思ったものの、普通という印象でした。
似たような試みでは『虚構推理』もあるし、設定のユニークさだけでここまで評価されないだろうと思いつつ、読み進めました。

まだ何かあると予想しながら読んでいたわけですが……。
何を書いてもネタバレになりそうなので、ネタバレ無しでこれ以上書くのは難しいです。まだ読んでない人は、読んで下さいと言うしかありません。

あとがき

本書は様々な技巧が施された作品。かなり話題になった作品ですし、どこかでネタバレされる前に読んだ方がいいです。
※これ以降ネタバレがあります。未読の方は注意。

ネタバレ

上に書いたように何かあるはずと身構えていたので、香月が連続殺人犯というのは、予想が付きました。

翡翠に対する香月の内面描写で、ところどころストーカー的な気持ち悪さを感じる部分があったので、違和感を覚えていました。

これは分かり易かったので、わざとこう書いていたに違いありません。その後に待ち受ける本当のどんでん返しを効果的にするために。
確か作中で〝人は自分が発見した事実に執着しがち〟みたいなことを言っていた気がします。僕はまんまとその術中に嵌まっていました。
香月が連続殺人犯というのを発見したがゆえに、その後の翡翠が探偵というネタはまったく予想していませんでした。これには大いに驚かされた。
翡翠にあざと過ぎるきらいがあるにしても、これは近年よく見るラノベ的なキャラ作りだろうと、特に気にしていなかった。これもある意味思い込みですね。
僕が五冠も納得と思ったのは、徹頭徹尾ロジカルだったからです。
超常現象で真相が分かっていたのかと思いきや、実は論理で導き出していた! これには驚かされると同時に、興奮させられました。

翡翠が語る論理自体も面白かったし、作中でも言及しているように、こうすることによって多重解決の面白さも加味されています。

連作短編集の最後の最後で、いきなり多重解決ものになる構造。こんなミステリを僕は今まで読んだことがありません。
こう考えると1つ1つの短編もよく出来ているのがわかります。真のロジックを隠しつつ、一先ず納得できるロジックを用意するわけだから、相当な構成力が必要に違いない。
作者はいったい何手先まで読んで話を作っているのだろう。僕なんかでは想像も付きません。
こんな風に偏執ともいえるぐらいロジックに拘っているため、ミステリ賞で評価されるのも納得と思った次第です。
そしてだからこそ逆に、あまり万人受けしないのでは? とも感じました。最後に長々と説明パートがありますからね。
個人的にはエピローグがあったのが良かった。もしこれがなければ、翡翠はただの性悪女になっていましたからね。翡翠の本性を忖度させるこのやり方も巧み。
香月の動機に関しても、単純な快楽殺人ではなく、ちゃんと理由があったのが良かった。

細部まで考え抜かれた作品。面白かったです。

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