『夏服パースペクティヴ』長沢樹 クローズドサークルの青春ミステリ小説

感想 ★★★★☆

前作『消失グラデーション』の続編。『消失グラデーション』は一発ネタみたいなところがあって、この作品をシリーズ化するとは思わなかったので少々驚きました。

個人的にはこちらの方が好きですね。『消失グラデーション』で合わないと思った方も読んでみてほしい。本作の方が本格ミステリとしての出来は上だと思います。

それと映画や映像に興味がある人にもおすすめ。撮影合宿という設定だし、蘊蓄もあるので楽しく読めます。


ロジックに拘った青春ミステリならこんなのもあります。

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あらすじ

都筑台高校の映画研究部の遊佐歩と樋口真由は、新進気鋭の映画監督が製作するドキュメンタリー映画に、スタッフとして参加することになった。

他の参加者は監督の出身校である名門女子高の映研部の面々とモデルや女優など。

撮影の舞台は山奥にある廃校になった中学校。そこでアイドルユニットのPVを高校生たちが撮影して、その様子をドキュメンタリーにするという企画だった。

しかしそれは、ただの撮影ではなくて、監督は様々な仕掛けをほどこしていた。撮影スタッフに亀裂が入るように煽ったり、偽の殺人事件を用意して推理させたりと、普通の人物ではない。

高校生たちは戸惑いつつも、楽しみながら撮影を続けていたのだが、予期せぬ嵐に襲われ山奥に孤立し、やがて殺人事件が起きる。

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青春要素が強めで蘊蓄もあり

合宿というのもあるし、撮影風景が長くて終盤近くまでは青春小説といった感じ。高校生たちのやりとりに重きが置かれ、日常の謎系ミステリのようなほのぼのした空気感。

しかしそれにしては、冒頭の連続少女監禁事件という陰惨な事件が合わなくて、もやもやしながら読み進めて行きました。

著者が映像制作会社に勤務しているというのもあって、撮影方法や映像に関することが丁寧に書かれています。個人的には映画『ブレードランナー』に関する蘊蓄を知れたのがよかった。

前作を読んでいなくてもわかるように書かれているため、いきなり本作を読んでも問題ないです。ただ、『消失』と『夏服』のどちらを先に読むかによって、各作品の読み方は変わってしまう。

驚きが一つ減ってしまうため、シリーズ化する必要なかったのではと感じました。ミステリの場合、デビュー作をシリーズ化する傾向が強いのでそうしたのでしょうか。

前作に登場した樋口真由と遊佐歩である必要はなかったし、テイストも違ったので、個人的には新たな人物を想像して、ここからシリーズ化した方がよかったと感じました。

前作がちょっと特殊なんですよね。

トリック・動機・構成について

殺人事件が起きてから、ミステリではお馴染みともいえる〝ある行為〟が行われて(ネタバレを避けるためにこう表現)、それをやった理由が特殊でありながら論理的で面白かった。

最近のミステリでは、こういう一見異常に見えるけれど、ちゃんとした理由がある特殊な動機が流行っているように感じます。

近年デビューした河合莞爾や梓崎優の作品などにもその傾向がありますね。こういうのは大好きです。とても興味深い。

終始面白く読みましたけど、最後の謎解き部分に少し不満があります。

犯人の行く末がわかった後に、中盤で起きた事件の謎解きをするのですが、これは逆にしたほうがよかったと思います。どうしても説明的なる謎解き部分を先にした方が、余韻のある終わり方になっていたはず。

殺人事件と直接関係のない出来事の謎解きを、最後に持ってくるのはどうかと思います。そのせいで余韻が消えてしまった。面白かっただけにその点が残念。

あとがき

ミステリとして一見の価値ある作品に仕上がっています。加えて青春小説としての楽しさもある秀逸な作品だと思います。

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