『午後のチャイムが鳴るまでは』阿津川辰海 あらすじと感想

 

感想 ★★★☆☆

次世代の本格ミステリ作家として人気の著者初の学園ミステリ。高校の昼休み中に起きた様々な出来事を、連作短編形式で綴っています。

質の高い本格をいくつも書いてる著者ですが、本書はミステリ部分にはあまり力を入れていません。いつものようにトリックやロジックを期待して読むと肩すかしを食らいます。

学生たちのバカバカしさやキラキラ感などを書くのが、本書の目的だったのでしょう。そういう意味では期待通りの良さがあります。

青春ものが好きな方は晴れやかな気分を味わえます。

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あらすじ

『RUN! ラーメン RUN!』

お調子者の男子コンビが、昼休みに校外の店でラーメンを食べようと試みる。学生が校外に出ることは禁止されていが、はたして彼らは誰にもバレずに成し遂げられるのか。

 

『いつになったら入稿完了』

文芸部一同は文化祭での部誌の発行に向け、徹夜の追い込み合宿を行っていた。みんな何とか原稿を上げる中、表紙のイラストが上がってこない。

イラスト担当の生徒を探す部員の前で、彼女は忽然と姿を消すのだった。

 

『賭博師は恋に舞う』

2年A組の男子一同は賭けポーカーを行っていた。賭けていたのはクラスのマドンナに告白する権利。何としてでも勝ちたい彼らは、各自様々ないかさまを考案して勝負に臨むのだった。

 

『占いの館へおいで』

文化祭で占いの出し物をする生徒が、準備中に不審なつぶやきを耳にする。「星占いなら仕方がない。木曜日ならなおさらだ」

はたしてこれはどういう意味なのか。仲良し三人組が推理する。

 

『過去からの挑戦』

母校で体育教師を務める男には、学生時代からの悩みがあった。同じ部活で仲が良かった女子生徒が、彼の目の前で忽然と姿を消したのだ。

彼は何年もその謎に囚われていたのだが、ある生徒によって遂にその謎が明らかになる。

 

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感想

同じ高校を舞台にした連作短編集で、各話で登場人物は異なります。

しかしながら、同じ学校なので登場人物同士の繋がりはあって、どういう関係性なのか、その繋がりが分かってくるのが面白い。

この辺は学校を舞台にしたことの良さですね。

どの話でも嫌な人物は出てこず、終始爽やかな物語で非常に好感度が高いです。ミステリでありがちな奇抜なキャラも出てこず、等身大の高校生という感じ。

それがリアルでいい反面、強烈に惹かれるキャラはいなかった。皮肉なことに学生ではなく、『過去からの挑戦』の教師が一番印象的でした。

ストーリーとしても『過去からの挑戦』が一番好きだった。この辺は読む人の年齢によって変わってくると思います。

学生のお馬鹿な感じを最も味わえる『賭博師は恋に舞う』が一番という人もいるでしょう。

ミステリとしての感想ですが、謎やトリックを期待して読むタイプではありません。難易度はかなり低いです。

謎やトリックで驚かせようとしてないのは明らか。ミステリ部分を期待して読む作品ではないですね

唯一ミステリらしいトリックだったのは、『過去からの挑戦』の消失方法。それ以外の作品は物語を進めるための一要素という感じ。

『占いの館へおいで』はかなり強引に感じました。

連作短編らしく全体を通しての仕掛けも一応ありますが、こちらも途中で分かってしまうので、やはりそういう意図で書かれていませんね。

 

あとがき

本作は純粋に青春小説として楽しむ作品。好感が持てる作品ばかりで読後感もいいです。ただ、深く刺さるほどではなかった。

一番好きだったのは最後の『過去からの挑戦』。予想通りながら情感があって気持ちの良い読書体験となりました。

 

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