ハルチカシリーズ最初の1冊 『退出ゲーム』初野晴 

感想 ★★★★☆

横溝正史賞を受賞してデビューした著者の青春ミステリ小説。高校一年の穂村チカと上条ハルタが活躍する四編を収録した連作短編集となっています。

文体が軽いので巻き起こる事件もほのぼのしたものかと思っていましたが、なかなか重たいテーマを扱っており意外性がありました。それでいて読後感は青春小説らしい清々しさがあって、好感が持てる作品でした。

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あらすじ

『結晶泥棒』

文化祭を目前に控えたある日、科学部から劇薬である硫酸銅の結晶が盗まれた。警察に通報するかどうか迷う実行委員の面々。事を大きくしたら文化祭が中止になってしまうかもれない。そこでハルタとチカは自分たちで犯人を見つけ出そうと躍起になる。

『クロスキューブ』

成島美代子の死んだ弟が残したのは、六面すべてが白色のルービックキューブだった。なぜ弟はこんなキューブを残したのか。その謎を解きたい成島はチカとハルタに相談する。

『退出ゲーム』

ハルタとチカが所属する吹奏楽部と演劇部が些細なことから対立する。二つの部は即興劇で対決し勝敗を決めることとなった。あるシチュエーションを設定し、即興劇を演じながらそのシチュエーションから退出できた方が勝ちという趣向。伯仲する即興劇の行く末にはある結末が待ち受けていた。

『エレファンツ・ブレス』

発明部の二人が作った好きな夢を見られる枕。その枕を購入したのは誰かというところから物語は始まる。エレファンツ・ブレスとは枕を購入した学生の祖父がつぶやいた言葉だった。記憶喪失の祖父がつぶやいたその言葉の意味を探るために、枕を利用しようとしたのだ。

詳しく話を聞いたハルタとチカたちは、祖父に会いに行って言葉の謎を解こうとする。そしてエレファンツ・ブレスの意味に辿り着く。

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ミステリとして

表題作の『退出ゲーム』は日本推理作家協会賞の短編部門の候補に選ばれました。しかしながら、謎解きの論理が緻密とか、あっと驚くトリックが仕掛けられているわけではありません。それはどの話もそう。

トリックや論理が重視される本格ミステリではありませんが、真相に意外性のある話もあって、ミステリとして充分楽しめます。

最初『結晶泥棒』を読み始めた時は、僕には合わないかなと思いました。でも次の『クロスキューブ』でその感想が変わりました。『クロスキューブ』から内容に深みが加わってきたのです。

表題作の『退出ゲーム』が有名ですが、『エレファンツ・ブレス』のほうが圧倒的に出来が良いです。この短編はすばらしいと思う。序盤はコミカルで、真相には深みがあります。

そういう意味で意外性があるし、単純に物語として面白い。この話目当てに本書を買っても後悔しないでしょう。

ハルチカシリーズの魅力はキャラにあり

主人公のチカとその幼馴染のハルタはもちろん、他の登場人物も個性的でそれぞれキャラが立っています。そんな彼らが織りなす青春小説としての面白さが人気の理由です。

ハルタとチカは吹奏楽部に所属しています。吹奏楽をやるには部員が不足しており、足りないメンバー探しと、日々の練習に四苦八苦しているような状態。この辺の設定は部活ものの定番ですね。

各話でメインとなる人物はいずれも楽器経験者で、1話解決する度に吹奏楽部に入部して仲間となります。生徒たちだけなく、忘れてはならないのが草壁先生の存在。チカとハルタが迷っている時に、助言を与える彼が物語に彩りをもたらしています。

登場人物と同年代の十代の学生や若者に特におすすめですね。主人公が女性なので女性にもおすすめ。文体は若者言葉で軽快なノリ。『図書館戦争』の有川浩や『ゴーストハント』の小野冬由美に近い感じですかね。

普段小説を読まない人でも読みやすいと思います。青春小説、部活ものが好きな方はきっと楽しめるはず。

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