
感想 ★★★★★
ミステリ界の重鎮、島田荘司の初期作品。現実的にはありえない設定だけれど、本格ミステリのロマン溢れる小説で非常に好きなタイプでした。
あらすじと内容
物語の舞台となるのは北海道の最果てに立つ斜めに傾いた館。流氷館と名付けられたこの館を建てたのは、莫大な資産を持つ大企業の社長。
この奇妙な館で社長の仕事関係者数人と、住み込みの使用人が参加するだけの、密やかなクリスマスパーティーが開催される。
パーティー当夜、謎の密室殺人が起き、さらに新たな殺人まで発生し、流氷館は恐怖と混乱の坩堝と化すのだった。
僕はこの設定がまず好きです。人里離れた館、クローズドサークル、密室と、本格ミステリ好きには堪らない設定です。様式美ともいえる状況で、しかもトリックが他に類をみない奇抜さだったので、大満足ですね。
御手洗と石岡のコンビが活躍するシリーズものですが、彼らが登場するのは後半以降。御手洗の奇抜なキャラクターは健在で、本作でも如何なく発揮されています。彼の変人ぶりと天才的な推理は読んでいて楽しい。
物理トリックの傑作
流氷館は斜めに傾いていたり、隙間が空いているところがあったりと非常に変わった作り。このことが必ずトリックに使われるだろうと、注意深く読んだのですが、僕にはトリックを当てることができませんでした。
メイントリックはとても意外性があって当てられる人は極少数だと思う。『占星術殺人事件』同様、一度読んだら絶対忘れないようなインパクトの強いもの。よくある心理トリックではなく、物理トリックな点もポイントが高いです。
このトリックを成立させるために作られた話と言ってよく、動機やその他のトリックは別段興味を惹かれるようなものではなかった。
それでも満足できるほどメイントリックは素晴らしかったです。力技で成立させたような荒っぽさがあって、一歩間違うとバカミスと評されそうです。しかしそういうところも、島田荘司作品の魅力だと思います。
この方法を思いついた発想力が人並み外れている。思わず笑ってしまうと同時に納得もできる独特なトリック。
終わりに
ミステリ小説において、盲点をついたような心理トリックは結構あると思うんですよね。それに反して物理トリックは、そもそも数が少ないように思います。
特に近年出版されるミステリ小説で、物理トリックにこだわった作品は、極端に少ないんじゃないでしょうか。しかも、傑作と評されるくらいになると尚更です。まあ、僕が知らないだけという可能性は大いにありますが。
雪に閉ざされた館で展開される密室劇。雰囲気とロマンがあって本格ミステリ好きなら必ず満足する一冊です。まだ読んでなくて物理トリックを探しているなら、是非読みで見て下さい。おすすめです。


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