『扉は閉ざされたまま』石持浅海 あらすじと感想

感想 ★★★★☆

犯人と探偵役の攻防が面白い倒叙ミステリ。多くのミステリの場合、犯人が誰かとか、どうやって殺したかとか、なぜ殺したか、に焦点が当てられそこにトリックが用いられます。

それがミステリの、特に本格の醍醐味なので倒叙ミステリは少ない。そんな中で本作『扉は閉ざされたまま』は、倒叙ミステリとしてかなり面白い部類に入ると思います。

よくある倒叙ミステリというか、犯人視点の話だと、犯人の心理や動機で読ませるだけのものもありますが、ちゃんとミステリとして楽しめます。

あ、そういうことか! と思わせてくるので、本格ミステリ好きの人にもおすすめ。

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あらすじ

大学時代の仲間たちが集まった同窓会で、伏見亮輔は友人を殺害する。高級ペンションを貸し切って行われており、その一室で犯行を終えた伏見はトリックを使って鍵を掛け、部屋を密室にした。自殺になることを期待してのことだったが、参加者の一人、碓氷優佳によって徐々に歯車が狂い出す。

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感想

倒叙ミステリは通常と違って犯人の視点で事件が語られます。従って、犯人は始めからわかっているし、殺害方法も明らかなものが多い。犯人の計画した完全犯罪がどのように暴かれるか、そこに面白さがあります。

犯人の心理描写ができるのも特徴ですね。映像作品では古畑任三郎や刑事コロンボが有名。

本作の犯人である伏見亮輔は慎重な人間で、事前に綿密な犯行計画を練っていました。決して頭が悪いわけではありません。起こり得るかもしれない事態も想定した上で、完璧に遂行できると確信した上で犯行に及びます。

実際、犯行は彼の計画通りに進みます。何一つイレギュラーはなく、呆気ないくらい想定通りです。計画通りに行ったので、伏見は当然、完全犯罪を確信します。

だが伏見の遙か上を行く存在がいました。碓氷優佳です。伏見にとっては完璧でも、碓氷からして見れば、穴だらけの計画。それが明らかになる展開が面白い。

伏見が秀才とするなら、碓氷は天才ですね。この伏見と碓氷の頭脳戦は見応えがありました。追い詰められる伏見の焦り、苛立ちを自分のことのように感じられました。

もっと上の存在を目の当たりにし、いかに自分が凡人なのか思い知らされる伏見。倒叙ミステリの面白さが、最大限に発揮されています。倒叙ミステリってこんなに面白いのかと、発見させられました。

正直言って密室にした仕掛け自体は大したことありません。でも上記に描いたようなやり取りが抜群に面白かったです。

動機について

ところで、石持浅海の小説は動機がナンセンスなことで有名。そんなことで人を殺すかよ、と思うものが少なくありません。

本作でもそれは言えて、動機に関してはうーんと思ってしまいます。でも石持作品はそういうものと、割り切るべきかもしれません。動機を重視したミステリを読みたいなら、社会派小説を読んだ方がよっぽどいいですね(笑)。

純粋に倒叙ミステリとしての出来を楽しむのが正解でしょうね。

あとがき

些細なことまで緻密に書かれていて、作者の本格ミステリに対するこだわりが感じられます。最後に密室が解けて、明らかになる事実にも唸らされた。

このレベルの倒叙ミステリはあまり多くないので、希少価値の高い作品。おすすめです。

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