新たな本格ミステリ小説の誕生『その可能性はすでに考えた』 井上真偽

magical

感想 ★★★☆☆

著者の井上真偽は2015年にデビューしたばかりのメフィスト賞出身の作家。本作はその受賞第一作。

やはり本格ミステリを得意としているようだ。この小説に関しては、かなりロジックへのこだわりが感じられました。


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あらすじ

主人公は探偵業を営んでいる上苙 丞(うえおろ じょう)。彼の元へ依頼人がやってくる形で物語が始まります。

依頼人は若い女性で名前は渡良瀬。彼女の依頼は、自分が殺人者かどうか推理して欲しいという、一風変わったもの。

詳しく話を聞くと、渡良瀬はかつて集団自殺を行ったカルト宗教の唯一の生き残りで、事件が起きた際は子供だった。

夢とも現実ともつかない曖昧な記憶から、兄のように慕っていた少年を殺したのではないかと気に病んでいた。

彼女の話や事件の捜査資料などから、あらゆる可能性を検討した上苙は、ある一つの結論に達する。これは間違いなく奇跡だと――

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独特なキャラクター

キャラクター設定は漫画やライトノベルを彷彿とさせるほど奇抜です。探偵の上苙は青髪、美形、しかもオッドアイときた。名前の〝うえおろじょう〟はフリガナがないとまず読めないでしょう。

随分珍しい苗字だから創作したのかと思いきや、実際にある苗字と知り驚きました。

そして彼の相棒役として、フーリンという名の中国人が登場します。彼女は中国裏社会出身の殺し屋という設定。

このフーリンが語り手なので、中国に関する蘊蓄がところどころ出てきます。著者は中国文化に精通しているのかなあと、そんなことを考えながら読み進めました。

魅力的な設定

肝心の事件の謎は魅力的でした。人里離れた山奥の村、カルト宗教団体、集団自殺、動く首無し死体などなど、ミステリやホラー好きの心をくすぐるキーワードの数々。

問題となるのは渡良瀬が慕っていた少年を誰が、いつ、どうやって殺したか。これがいわゆる不可能犯罪の状況で、奇跡でも起きない限り実現不可能なのだ。
上苙は考え得る可能性をすべて潰した結果、この事件を奇跡のなせる業と断定するわけですが、様々な人物が現われてそれに待ったをかけます。

こういう可能性もあるんじゃないかと推理を披露し、それを論理的に否定して行くという形。だから構成としては多重解決ものといえます。

トンデモトリックと思えるものまで、論理的に否定するところが特徴といえるでしょうか。披露されるトリックもそれを否定する根拠もユニークで読み応えがあります。

感想

こういう多重解決や推理合戦ものが好きな人は楽しめるでしょう。その一方で退屈に感じる人もいるかもしれません。

このタイプの場合、各章で語られる推理が間違っているのが分かっているわけだから、論理パズルに興味がないと、同じパターンで飽きてくるかもれません。

キャラの設定が現実離れしている点も人を選ぶでしょう。それと中華色をこれほど前面に出したのに何か理由があるのか気になるところ。
それにしても、近年の新人作家のミステリはこういう傾向が多いように感じますね。

キャラや文体は軽めで、事件や論理の部分は従来通り本格志向という作り。最近の流行りでしょうか。とにかく他の作品も読んでみたいと思わせる作家さんではありました。これからが楽しみ。

最終的な事件の結末は納得出来たし、救いのある真相で満足しました。だから事件や推理合戦に不満はないのです。キャラの設定にやり過ぎ感があるので、それをどう捕らえるかでしょうね。

コメント

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