知られざる短編ミステリの傑作『向こう側の遊園』初野晴 

gensou

感想 ★★★★★

ハルチカシリーズで有名な初野晴の連作短編集。2012に上梓された単行本『カマラとアマラの丘』を改題して文庫化したもので、ハルチカシリーズとはまた違った良さがありました。

高台の上にある廃墟となった遊園地が舞台のこの小説。どの話も現実の話でありながら、どこか寓話的な雰囲気があります。個人的にかなり好きですね。 短編ミステリとしての出来もよくておすすめの一冊。

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設定が魅力的

廃墟となった遊園地にはある噂が流れていた。
動物を埋葬するための墓地があって、そこにいる墓守に頼めば手厚く弔ってもらえる。ただし、そのためには自分の一番大切にしているものを差し出さなければならない。

各話の主人公はそんな噂を聞きつけ、自分の大切にしていたペットを埋葬するために、この地にやってきます。そして、人間と動物の心が読める墓守の青年と出会い、自身が関わった動物との謎、真実を知ることになります。

その結末は必ずしもハッピーエンドではなく、グロテスクにすら感じられる話もあります。この中で特に秀逸だったのは、『シレネッタの丘 ―天才インコ―』と『ヴァルキューリの丘 ―黒い未亡人とクマネズミ―』の二作。

話としても面白いし、ミステリとしてもよく出来ています。ミステリ好きなら必ず押さえておきたい短編です。

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各話のあらすじと感想

『カマラとアマラの丘 ―ゴールデンレトリーバー―』

遺灰を埋葬するためにやってきたセラピストの話。自身の仕事のことやパートナーとの思い出などを墓守の青年に語る。そして、パートナーを自分が安楽死させたことも。

表題作ですが、この話はさほどよくなかった。ミステリなので最後に驚きが用意されているものの、読み慣れている人なら途中で気づいてしまう可能性が高いでしょう。

『ブクウスとツォノクワの丘 ―ビッグフット―』

ビッグフットの遺体を埋葬して欲しいと頼む夫婦。墓守は夫と妻両方から別々に話を聞く。お互い相手のことを精神病だと言い、どちらの話が真実かわからないまま物語は進んで行きます。

先行するトリックを読んだことがあるので、それ自体に驚きは感じなかったものの、小説として面白かったです。なかなかの良作。

『シレネッタの丘 ―天才インコ―』

一家惨殺事件の捜査をしている元刑事が、解決の手掛かりを求めて遊園地にやってくる。ここに事件の鍵となる天才インコがいるとの情報を掴んだのだ。そのインコは惨殺された一家で飼われていたインコで、事件の会った日に家から逃げ出していた。言葉を話すこのインコが犯人を目撃している可能性が高かった。

墓守と話すうちに事件の全貌が徐々に明らかになっていき、最後に驚くべき真相が待っています。この真相は今まで読んだことのないもので、大いに驚かされました。見ようによって、グロテスクにも悲哀にもなりうる傑作。

『ヴァルキューリの丘 ―黒い未亡人とクマネズミ―』

リゾート建設における土地買収を担当している弁護士は、ある男を追って遊園地に来ていた。おんじいと呼ばれるその男は、買収予定地の山に生息するクマネズミの駆除を担当している男。ネズミがいるかどうかで資産価値が大いに変化するため、弁護士は彼の行動に注視していた。

ある時、街の若者十数人が買収予定地の山に入ったまま行方不明になるという事件が起きた。彼らは無事帰ってきたものの、その時のことを何ひとつ語ろうとしない。山でいったい何が起きたのか。弁護士はおんじいが関係していると睨んでいた。

これは非常に読み応えのある作品でした。おんじいが遊園地に行ったのは、クマネズミを弔うためで、墓守、おんじい、弁護士が鼎談するうちに山で何が起きたのか明らかになります。良く練られたストーリーで面白かった。小説としてのクォリティが高いです。個人的には一番好きでした。

『星々の審判』

少年と犬との交流を描いた正統なストーリー。他の作品と比べると見劣りしました。予想外の展開を迎えるのが多かっただけに、どうしても印象は薄くなってしまいますね。

あとがき

このようにとても読み応えのある短編集になっています。ハルチカシリーズを読んでいる方はご存じのように、著者は重いストーリーを書くのが上手いです。ハルチカシリーズからコミカルさを取っ払って、その部分を突き詰めた感じ。

ミステリや不思議な雰囲気の作品が好きな人には強くおすすめします。あまり知られていないのがもったいない。タイトルに関しては前の『カマラとアマラの丘』のままの方が良かったと思います。そっちの方がキャッチーだと思う。

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