映画化もされたホラー短編集 『赤々煉恋』朱川湊人

drop-of-water

感想 ★★☆☆☆

五つの話が収められたホラー短編集。朱川湊人はノスタルジーを感じさせる優しい小説も多く執筆していますが、もともとホラー作品でデビューした人。
本書に収められているのはどれも救いのない話で、後味はよくないです。そういうホラーを求めている人には良いですが、普段の優しい朱川作品が好きな人にはおすすめできません。
内容に関しても、特筆するほどの凄さはなくて、唯一良いと思ったのは『アタシの、いちばん、ほしいもの』。この短編も後味は悪いのですが、物語の余韻を感じられて、印象に残りました。
映画化されたのもこの短編で、インスピレーションを受けるも分かる気がします。

『死体写真師』

愛して止まない妹を病気で亡くした早苗は、死体写真師なる存在がいることを知る。その写真家は亡くなった人を美しく撮影する専門家で、病気で苦しんでいた妹を綺麗な姿にしてあげたいと思った早苗は、死体写真師に依頼する。

出来上がった写真は申し分ないほどの美しさで、早苗は大満足だった。しかし、そこにはある事実が隠されていた。

『レイニー・エレーン』

妻子ある中年男は出会い系サイトで女を見つけ、火遊びを楽しんでいた。ある時、男はふと昔の初恋相手を思いだす。彼女は後に世間を騒がせた事件の被害者となった。何故そんな人生を送ることになったのかと、思いを馳せていると彼女の幽霊が現れ――

『アタシの、いちばん、ほしいもの』

世間から居場所をなくした女子高生。孤独な毎日を送る彼女が望むもの――それは何気ないものなのだが、彼女はそれを手に出来ずにいた。もう永遠に手に入らないと諦めていた矢先、思いもよらぬ形で手に入れたものの、その後に起きた出来事に彼女は絶望するのだった。

『私はフランセス』

新興宗教の家庭で育った少女には盗癖があった。そのせいで家を追い出された孤独な彼女は、体を売って生計を立てるしかなかった。そうやって裏の世界で生きていた彼女にも、やがて転機が訪れる。心から愛する人と出会ったのだ。

社会的地位があって、性格も申し分ない。ただ、完璧と思われる彼にも一つだけ問題があった。常人とは異なる嗜好を持っていたのだ。

『いつか、静かの海に』

父子家庭で孤独を抱えていた男子児童は、ある日不思議な男と出会う。仲良くなって男の家に行くと、そこには寝たきりの美しい女性がいた。男曰く、彼女は月の住人とのこと。訝しく思いながらも、児童は次第にその女性に心を奪われていくのだった。
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感想

後味の悪さが特徴の本書の中でも、一番それを感じられるは『死体写真師』。主人公の早苗のことを考えると不憫でなりません。鬱な気分になりたい人はぜひ読んでみて下さい。
『アタシの、いちばん、ほしいもの』も気分が沈んでしまいますが、『死体写真師』と違ってただ悲惨なだけでなく、やるせない気分になる感じ。ゆえに印象に残りました。
その他の作品は業を抱えた人たちの話という感じで、つまらないわけではないけれど、しばらくするとどんな内容だったか忘れそうな気がします。
予定調和のハッピーエンドに飽きた、後味の悪い話を読んでとことん落ち込みたい、という人は手に取ってみてはいかがでしょう。そういうのもたまには良いかもしれません。

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