感想 ★★★★☆
山田風太郎のホラー系作品、十七作を収録した短編集。怪談というよりも、奇怪、奇妙、幻想的な感じの話です
身の毛もよだつようなゾッとする恐怖は感じられません。怖いと感じる話もあるのですが、読んで眠れなくなるとか、トイレに行けなくなるといったタイプではないです。
ホラー系と一口に言っても読み味は様々。グロテスクなものから、ある意味コメディっぽく見えるものまであって、楽しませてくれます。
全部が面白いわけではなくて、つまらいものもあるのですが、十七作もあるので大変お得ですね。山田風太郎作品が未読なら、被りもないでしょうし、買って損なしです。
僕が特に好きだったのは『人間華』、『双頭の人』、『二十世紀ノア』の三作
あらすじと感想
『人間華』
愛する妻の死が近いことを知った医者の天麻。無精子病のため子供を残せない彼は、何とか違う形で妻との愛の証を残せないかと模索する。その結果彼が行きついたのは、自分をこんな病気にした神に挑戦するかのような禁断の方法だった。
美しくもグロテスクな話でとても印象深いです。人間の執念、狂気を感じられ、それでいて描写に美しいので、神秘的に見えてきます。
『双頭の人』
研究者の鞆太郎はある女性に結婚を申し込む。しかし彼女には秘密があった。どんな秘密でも受け入れる自信があった鞆太郎は、隠し事があるなら教えてくれと頼む。しぶしぶ明かした彼女の秘密は、鞆太郎の想像を絶するものだった。
一番怪談らしい怖さを味わえた作品。小説としての完成度も高く傑作といっても過言ではないです。男の本質を鋭く抉るような話でした。上手く映像化できたら、とんでもなく衝撃的なものになるでしょう。
『二十世紀ノア』
第二次大戦後、水爆の実験を繰り返すアメリカのせいで、日本に放射能を含んだ雨が降り注ぐようになった。梅雨のように何日も続き、やがて人体に影響が出始めるようになる。そして、その雨に適応した新人類が誕生するのだった。
こんなことが起こったらと、想像するともの凄く怖かったです。でもそれは、恐怖作品を読んで感じる怖さではなくて、地震などの災害シミュレーションを見た時に感じる怖さだった。非常に興味深い作品。
あとがき
想像力、発想力が凄まじいですね。独特な世界観の幻想的な話もあれば、奇抜な発想のブラックジョークみたいな話もあります。
上記に挙げた作品意外にも、『蝋人』、『畸形国』など有名な作品も収録されています。どちらも独特な作品で興味深く読みました。一番好きな作品に挙げる人もいるでしょうね。
古い作品なので差別的な表現があったり、気色悪いと感じるものもあります。今ではまずお目にかかれないので、そういう意味でも貴重。
例えつまらない作品であっても、山田風太郎の奇想ぶりは遺憾なく発揮されているので、凡作とは思いませんでした。
らしさを充分堪能できる作品集でした。満足です。
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