
感想 ★★★★☆
人間の恐ろしさを描いたホラー小説の金字塔。ミステリ、SFなど様々な分野を書いている著者の原点といえる作品で、第四回ホラー小説大賞を受賞しています。
生命保険に纏わる話で人間の執念、狂気を描いています。
貴志祐介は小説家になる前に、生命保険会社に勤めていたようで、業界の表と裏が詳しく書かれており、リアリティがありました。
あとがき
主人公は生命保険会社で窓口業務をしている若槻慎二。顧客の菰田家を訪ねた時に、彼はそこで子供の首吊り死体を発見する。
いろいろと不可解な点があったため、若槻の会社は保険金を支払うことを保留する。すると菰田は頻繁に若槻のもとを訪れ、早く保険金を支払うよう催促してくるようになった。
そのことにストレスを感じ始める若槻。菰田家を調査するうちにとんでもない事実が判明し、若槻は恐怖の泥沼へと引きずり込まれていく。
以下ネタバレあり
目を引くシーンをところどころに入れて、ぐいぐい引っ張っていく力はさすがでした。
子供の死体を発見するというショッキングなシーンで始めて、中盤で黒幕を登場させる。そして、若槻の恋人が拉致されてからの怒涛の展開には、ハラハラさせられました。
菰田の妻の異常性を伝える描写が秀逸。金のために旦那の腕を切断したというシーンには、思わず身震いしてしまう。
この小説を読んでいて感じるのは、現実的な恐怖。菰田の妻は超人的な力をもっているわけでも、天才的な頭脳をもっているわけでもない。
どこにでもいる中年女とかわらないスペックなのだ。真っ当な精神を失い、化物となった人間ほど恐ろしいものはない、と心から思いました。
特に恐怖を感じたのは、若槻が菰田の家に侵入したシーン。こういう潜入シーンって小説や映画などでよく見かけますが、何故こんなにドキドキするんでしょうね。
敵の本拠地に潜入するシーンは、この手の作品を作る上で必ず取り入れた方がいいですね。
そしてもう一つ思うのが、人間の執念深さは凄いなと。執念=怖さというの間違いない。幽霊の怨念もようはそういうことですもんね。
菰田の妻もこの執念の強さによって、とんでもない化物となっています。客観的に見れば戦闘になっても負けるわずはないのに、怖さを感じてしまう。
絶対にそんな事態になるのは避けたいと思ってしまう。それによって侵入シーンの怖さも来ます。
ヒロインの誘拐方法にそれが顕著に現れていました。いったいどうやって誘拐したのか、そこにミステリ的な謎があります。はて? どんなトリックを使ったのかと考えたくなるところですが、その方法が原始的な力技。
リヤカーを使って延々と運んだなんて、この執念には空恐ろしさを抱かずに言われません。このシーンは記憶に残ります。
ラストの若槻と菰田の対決シーンは、まあホラーなら予定調和という感じもしますね。ラストシーンではそれほど怖さは感じませんでした。
あとがき
恐怖という意味では侵入シーンとリアカーの件が印象に残っています。その他にもいろいろ不穏な場面があって、人によってハイライトは違うでしょうね。
人間の怖さを描いたホラー作品としては、世間的にかなり上位に位置づけされてますね。それで興味を惹かれて今回読んでみたわけですが、なるほどと納得できる作品でした。
確かに人間の怖さがよく描かれていると思います。
さて、これが小説の中だけの話ならいいですが、ニュースを見ていると現実にもこういった人間がいて恐ろしくなりますね。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものです。
そういう人間とは一生関わり合いにならないことを、ただただ願うばかり。



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