『硝子のハンマー』貴志祐介 驚愕の物理トリック 

感想 ★★★☆☆

ホラー小説を書いている貴志祐介が、初めて書いたミステリ小説。防犯コンサルタントの榎本と女弁護士の青砥が活躍する本作は、その後シリーズ化されドラマにもなりました。 

とにかくトリックが凄い本。こんな方法を思い付く人は、おそらく作者以外にいないのではないでしょうか。僕はそれくらいビックリしました。

そしてタイトルの凄さにも唸らされます。

なのでミステリとしては申し分ないのですが、物語はそれほど面白いと思わなかったので、星三つの感想となりました。

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あらすじ

介護事業を営む会社の社長が密室内で撲殺された。窓は嵌め殺しでドアの前には監視カメラが設置されていた。しかも、その部屋に行くにはエレベーターで暗証番号を入力しなければならなかった。

まさに難攻不落の完璧な密室。そして凶器も発見されない不可能犯罪。

榎本は青砥とともに調査をして、様々な可能性を検討していくが、 推理はことごとくはずれる。はたして、彼らはこの謎を解くことができるのだろうか。

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感想

本作は第一部と第二部に別れています。一部では榎本と青砥のコンビが、可能性を一つ一つ潰しながら進行していきます。

多くの可能性が却下されるので、本当にどうやって殺したのか全くわからず、早く解決編が読みたくなりました。防犯に関する蘊蓄も豊富で読み応えもあります。

第二部は犯人の視点に移って倒叙ミステリのような形になります。犯人の歩んできた悲劇的な人生が語られ、社長を殺した動機もあきらかになる。

物語の合間に少しだけ犯人の視点に移るミステリはよくありますが、後半からがっつり倒叙ミステリになるのは、意外と珍しい気がする。

ただ、こういう構成にする必要があったのか少し疑問に思いました。犯人の心理が書けるので、物語に膨らみは出るかもしれません。

でも、第一部のような一般的なミステリのスタイルで、そのまま謎解きをやった方が面白かったのでは? と思いました。

魅力的な謎で凶器も意外性抜群だっただけに、勿体ない気がしてしまったのだ。

トリックについて

冒頭でも書いたようにトリックがとてもユニーク。これを当てられる人はいないんじゃないでしょうか。一歩間違うと、とんでもトリックになりそうなくらい奇抜。

でも説得力があってそんな印象はありません。これは物語を通して様々な事柄について、ちゃんと調べた上で書いているため、その積み重ねもあるでしょうね。

短編とかでいきなりこのトリックだと、は? となる可能性もあります。この辺の塩梅も作者の筆力がなせる技でしょうか。

バカミスにもなりかねないギリギリのところをついています。ゆえに一度読んだら忘れない唯一無二のトリックになっています。

伏線もちゃんとあるのに、この方法にはまったく思い至らなかった。目から鱗の方法でした。物理トリック好きは必読ですね。

あとがき

ミステリとしての面白さは抜群ですが、物語としては嵌まれなかった。探偵とその相棒にキャラクターとしての魅力をあまり感じなかったのと、犯人のパートを楽しめなかったのが主な理由。

トリックがもの凄いだけに、それに特化した構成で読みたかった。そうすればもっとページ数を減らせて、ミステリとしてのキレ、完成度は上がったはず。

犯人パートのせいで冗長になっていた気がしますね。正直、犯人の生い立ちや犯行に至った動機なんて、どうでも良いと思うほどのトリックだったのです。

逆にそういう部分もちゃんと読みたい人の場合は評価も変わるでしょうね。

それにしても、これが著者初のミステリとは思いませんね。貴志祐介おそるべし。

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