ディストピアSF 『雨の庭』友浦乙歌 レビュー

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いつもと違って、今回は依頼を受けてのレビューとなります。なので、普段のように星による採点はしていません(依頼を受けた身でそれをするのは、失礼と思ったので)。
僕なんて、ただ好き勝手に駄文を書き散らかしてるだけなのに、ありがたいことです。
物語から幸せな時間をもらっている身としては、全力で応援したいものです。
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あらすじ

記憶喪失の律歌は、いつの間にか楽園のような場所にいた。そこでは〝アマゾウ〟という通販サービスを利用して、欲しいものが何でも手に入る。しかも無料で。
働く必要がなく、山に囲まれた緑豊かな環境で、自由気ままに過ごせるのだ。しかも、北寺という良き理解者もいて、まさに楽園そのものだった。
そんな暮らしを満喫していた律歌と北寺は、ちょっとした冒険心から山の向こう側を探索する。そして山の外を覗いた二人は、驚愕するのだった。
この場所はいったい何なのか。なぜ無料で何でも手に入るのか――。律歌と北寺は真実を求めて動き出す。
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感想

読んでまず思ったのは、力作だなという感想。労働問題がテーマとなっているし、設定はがっつりSF。ディストピアとは何なのか考えさせられますね。
いったいどういう状態が人間にとってディストピアなのだろうと、考えてしまいます。著者の思いが伝わるような、熱意がほとばしる作品。
物語の序盤では、律歌と北寺のゆるい生活が描かれます。律歌が記憶を失った背景には、何か深い秘密が隠されている――。そう仄めかされつつも、とても甘い調子で話が進んでいきます。
でもそれは意図されたことで、途中から思わぬ方向へと進んで行く。
おや、どうやらこれは一本調子の話じゃないぞと、居住まいを正しました。これまでの甘い雰囲気が、その後の展開とのギャップとして、効果的に機能していました。
律歌の目指すもの、律歌たちの抱える問題は、現実世界を生きる我々読者にとっても、重要な問題。現代の、資本主義社会の闇と言って良い。
とりわけ日本においては、同調圧力も加わってきます。皆やっているのだから、やらなければならない。自分だけ辛いなんて言うわけにはいかない、逃げることができない。
あまりにも根が深く、ちょっとやそっとじゃ、どうにもならない話です。
そんな難しすぎる問題に、己の人生を賭け真剣に取り組む彼女たちを見ていると、応援したくなりますね。
高校時代のエピソードがあるのですが、その部分は青春小説のような爽やかさがありました。部活の様子などが描かれ、楽しくもスポ根漫画のような情熱に満ちています。

あとがき

目標に向かって今を懸命に生きる律歌たちを見ていると、自分も頑張らないとって気になりました。今の自分はまだまだ頑張れてない、もっと出来ることがあるんじゃないかと、前向きな気分になります。
主人公である律歌の成長に勇気をもらえるビルドゥングスロマン。ちょっと疲れたと感じた時などに、読み返したいですね。

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