SF短編集 『盤上の夜』宮内悠介 

感想 ★★★★☆

第一回創元SF短編賞・山田正紀賞を受賞した表題作を含む短編集。

収録されている六つの話はいずれもボードゲームを題材としています。好みがはっきり別れそうな作品。

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各話あらすじ

『盤上の夜』

都市伝説と同じように拉致され手足を切り取られた灰原由宇。無残な姿に変えられてしまった彼女は、中国人の囲碁の賭博師に 買われる。

男と共に生活するうちに由宇は囲碁を覚え、その力によって男の元から脱出する。

その後、日本人の囲碁棋士と行動を共にして、日本棋士界を席巻するほどの活躍を見せる。本因坊にまで上り詰めた彼女の数奇な人生が綴られる。

『人間の王』

チェッカーというチェスに似たゲームのチャンピオンの話。実話を元に書かれている。

四十年間無敗のチャンピオン対コンピューターの対決を描く。

『清められた卓』

麻雀の話。宗教団体の教祖、プロ雀士、サヴァン症候群の天才、医師の計四人による勝負の様子が語られる。

牌が見えているとしか思えない打ち方をする教祖。イカサマかそれとも超自然的な力によるものか。混乱の坩堝と化した雰囲気でゲームは進んで行く。

『像を飛ばした王子』

将棋やチェスの原型となったとされる、チャトランガーを作った男の話。古代インドで誕生したこのゲームを作った男はシャカ族の王子だった。

侵略の危機に瀕する国で、様々な苦悩と葛藤しながら、ゲームを作り上げた男の人生譚。

『千年の虚空』

将棋に纏わる兄弟の物語。棋士になることを諦め政治家となった兄。プロ棋士となった統合失調症の弟。 その二人を翻弄する魔性の女。

そんな三人が織りなす悲哀の群像劇。純文学のような読み味。重い。

『原爆の局』

『盤上の夜』の続編。現役を退いた由宇と対戦するために、現役プロ棋士が彼女の元を訪れる。

その話の合間に、原爆投下時の広島で囲碁のタイトル戦を行っていた伝説の棋士たちの逸話が語られる。

 

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感想

いずれの話もジャーナリストの取材記録という形式で綴られます。

そのためノンフィクションの記事を読んでいるような感覚になります。グイグイ読ませるような語り口ではなく、自伝や事件記録のような淡々とした文章。

囲碁や将棋が好きな人は面白く読むことができると思います。基本的にはどの話もゲームの知識がなくても読めるようになっています。

しかしながら、ところどころ意味がわからない部分が出てくるでしょう。その時に興味をそがれてしまうかもしれません。 

特に印象に残ったのは表題作の『盤上の夜』。だるま女という有名な都市伝説があります。

どんな話かというと、中国へ旅行した女性が何者かに拉致され、手足を切り取られ見世物にされる、という世にも恐ろしい話。

本作ではそれと同じ体験をした女性が主人公です。どうやってこんな話を思い付いたんだろうと、不思議に思うほど奇特な着想です。

そして続編の『原爆の局』も興味深かった。この原爆投下時の対局は実際の話らしく、こんなことがあったのかと勉強になりました。

 

あとがき

以上の理由から好みが別れる作品だと考えられます。

こういったボードゲームが好きな人にとっては傑作になるかもしれません。逆に興味がない人にとっては、至極退屈な作品になる可能性もあります。

僕は一応将棋や麻雀のルールを知っているので、それなりに楽しめましたが、万人受けするとは思えないですね。なかなかエグい内容でもありますからね。

 

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