『化け物心中』蝉谷めぐ実 江戸を舞台に描かれる人間の闇

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感想 ★★★☆☆
とても興味深く印象に残る作品でした。ただ、かなり人を選ぶと思います。大絶賛する人がいるのも頷けるし、合わない人がいるのも頷けます。
というのも、世界観がかなり特殊なんですよね。物語の舞台は江戸時代の歌舞伎座、しかも主人公以外ほぼ全員、女形です。

それだけでも充分過ぎるほど独特な世界なのに、人を喰う鬼まで登場します。

正直あまり僕の好む世界観ではなかったのですが、強いメッセージ性があって、非凡な作品なのは間違いないです。
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あらすじ

鳥屋を営んでいる心優しき庶民の藤九郞は、かつて一世を風靡した女形・魚之助の雑用係をやらされていた。

わがまま放題の魚之助に不満を覚えながらも、藤九郞は彼を放っておけないでいた。

そんな彼らはある日、江戸随一の歌舞伎座から奇妙な依頼を受ける。

鬼が役者の一人を喰って、その役者に成り代わっている。それが誰か見つけ出して欲しい、というのだ。
そんな恐ろしいこと冗談じゃない、と突っぱねる藤九郞をよそに、魚之助は面白がって依頼を引き受けてしまう。
こうして鬼捜しに乗り出すのだが、役者の世界のあまりの業の深さに、藤九郞はたびたび打ちひしがれる。
皆が皆、鬼に見えるような状況で、果たして彼らは本物の鬼を見つけ出すことができるのか――。
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感想

ページ数が280ページほどと少な目なのに、読み終わった後、お腹いっぱいになりました。重い、というか、深いというべきですかね。

特殊な世界に生きる人たちの業が描かれており、気軽に読めるタイプではありません。

男が女を演じる女形。そんな特殊な世界での様々な欲望――出世欲、自己顕示欲、色欲などなど。

作中の藤九郞と同じように、読者も圧倒され食傷気味になります。そういった人間の業を描くのが主題となっています。

物語の展開は、鬼候補の役者に探偵コンビが話を聞いて回るスタイル。候補者は六人で、一人づつ順番に腹の内を探っていきます。
その過程で各人が抱える闇が明らかとなり、殺人未遂事件が起きたりします。なので広義のミステリと言えますが、謎解きが主眼ではないですね。

ただ動機には目を見張るものがあります。鬼が役者を喰った理由は、印象に残りました。鬼にとっては、これが心の闇ということになるのかもしません。

本書では鬼のように非道な人間が多く登場するため、欲望とは何なのか、善悪とは何なのかいろいろ考えさせられました。
設定からも予想できるように、LGBT問題に触れられています。江戸時代の女形という特殊な世界で、その問題を扱っているのが斬新に感じました。少しBL要素もありますかね。
僕はそれらの話にあまり感心がないのですが、そういった問題に興味がある人は、より深く楽しめると思います。

あとがき

特殊な世界ゆえに、最初はなかなか物語に入っていけませんでした。自分には合わないかもと危惧したくらい。

でも、いつの間にか引き込まれ、気付いたら読み終わってました。

江戸文化や歌舞伎に詳しい人、時代小説を読み慣れている人なら、すんなり入っていけるのかもしれません。

一般受けしづらい内容だと思いますが、その反面、コアなファンを獲得するでしょうね。この人にしか書けない話を、これからも書いていくのだと思います。

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