『マルドゥック・スクランブル The 1st Compression』 冲方丁 

感想 ★★★☆☆

2003年に日本SF大賞を受賞した作品。

作品名は知っていたものの、SFということ以外どんな内容かまったく知らなかった。何の予備知識もなく読み始めたため、主人公の過酷な設定にまず驚かされました。

主人公が少女娼婦というのは、あらすじを見てわかっていましたが、まさかここまで重い設定だとは思ってなかったです。

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あらすじ

カジノ経営者シェルの情婦になっていた少女娼婦のルーン=バロットは、ある夜、そのシェルの手によって、車の中で焼き殺されそうになる。

死を覚悟したバロットだったが、寸でのところで委任事件担当官・ドクター・イースターと、ネズミ型万能兵器ウフコックによって救出され、何とか一命を取り留める。

しかし全身の皮膚は焼けただれ、爆煙を吸い込んだことにより声を発することが出来なくなった。

そんな瀕死状態のバロットを救うために、ドクターは禁じられた科学技術で人工皮膚を彼女に移植した。

このことによってバロットは、あらゆる物質に電子干渉できる能力を手に入れる。

その後バロットは自分を殺そうとしたシェルに復習するため、ウフコックとドクター と協力して彼の秘密を暴こうと動き出す。

その一方、バロットが生きていることを知ったシェルは、特殊な能力を持つ委任事件担当官・ボイルドを雇いバロット抹殺を企てる。

ボイルドは畜産業者と呼ばれる殺人集団と共に、バロットたちの隠れ処を襲撃する。はたして、彼女たちは無事に生き残ることができるのか……。

 

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感想

登場するキャラクターはみんな何らかのトラウマを抱えています。中でも主人公バロットの過去は、これ以上ないくらい悲惨。

幼少期に父親に性的暴行をされ、それを知った兄が父親を半殺しにしている。

施設に送られてからも、職員による暴行を受けたバロットは、そこから逃げ出し貧しい少女娼婦となります。

シェルの情婦になり、そんな生活からおさらばできるかと思いきや、火だるまにされてしまうのです。まさに徹底した不幸ぶり。

戦争のための兵器を開発していたドクターは、社会から排斥され、生物兵器であるウフコックはその存在価値を疑問視されます。

敵のシェルにしても、強迫神経症的なところがあり薬物に依存しているし、ボイルドは人間らしい感情を失っています。

このようなダークな設定が世界観に説得力をもたらしており、読んでいるうちに自然と話に引き込まれて行きます。

始まりが暗いだけに、バロットたちがこれからどういう成長を遂げるのか楽しみにもなります。

そして、この小説はただ鬱々とした暗い小説というわけではないです。

ドクターの飄々としたキャラや、ウフコックの生真面目なキャラによって、暗くなりがちな話にコミカルさが加味されています。

徐々に分かり合っていくバロットと彼らのやりとりには明るさがあります。

物語の流れはわりと王道。超人的な力を持つ何者かに力を与えられた主人公が、日常とは違う別の世界に足を踏み入れていく。それから様々な人物の助けを得ながら成長して敵を討つ。

途中で自分の力に酔って暴走したのち、正しい力の使い方を学ぶ――というように、面白い話に共通する要素がいくつも含まれています。

これからどういう展開になるのか楽しみだ。

 

あとがき

『マルドゥック・スクランブル』三部作の内、第一部である本作は、何とも中途半端なところで終わります。

購入するなら全部一緒に買うべきですね。

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